第二章 《竜の聖印》

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 きっと己が身に何が起きたかも分からず。 驚愕(きょうがく)の表情のままに、細かく身体を痙攣(けいれん)させ。  血を吐き、事切れようとしている手下から、男は無造作(むぞうさ)に剣を抜き放つと。 そのまま打ち捨てる。  そう―――・・・。  この男は、手下の一人を壁にして。 その体ごと、由鈴を刺し貫いたのだ―――。 「どうした? さっきまでの威勢(いせい)はどうしたんだ? あぁ?」  ねぶるような視線を由鈴へと向けて、男はにやにやとした嘲笑(ちょうしょう)を浮かべ。  激痛を堪え。 苦しげに息を切らした彼の、細い首を掴み。 そのまま軽々と掲(かか)げ上げる。 「ぐっ・・・ぅ!」 「オレが、お前の相手にもならないと言ったよなぁ?」  言葉と共に、首を締め付ける男の手に力がこもり。  息が出来ず、由鈴の頭が鈍く痛む。 「そうだな・・・。  さっきの言葉を訂正して、オレに許しを乞うってんなら。 竜王を呼び出すまでの間、可愛がってやってもいいぜ? なぁ?」 「だっ・・・れが、お前っ・・・なんか・・・に!」 「へえ? まだそんな口が利けるのか?」  楽しむように、男がその手に更に力を加え。  意識が遠退き。 気を失いそうになるのを、由鈴は唇を噛み締めて必死に繋ぎ止める。 「それにしても・・・。 これが『竜の花嫁』というものなのか?  この血の匂いを嗅いでいると、めちゃくちゃに貪(むさぼ)り。 喰らい尽くしてしまいたくなる・・・」  辺りに広がる、錆びた鉄のような血の匂い―――。  それに男は恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべて、また舌なめずりをし。 由鈴は背筋がぞっとした。 「やっ・・・めろ―――っ!」  渾身(こんしん)の力を込めて、由鈴は首を掴む男の手へと両腕を絡めると。 脇腹の激痛を歯を、食い縛り耐え。 全身を使ってその腕をへし折る。  すると鈍く、骨の砕ける音がし。 その瞬間に伝わってきた感触に、由鈴も苦しげな顔をした。 「がっ・・・ぁ―――!!」  男が、呻き声を上げてよろめき。  その手から逃れ。 地面を転がって着地した由鈴は、四つん這いのまま激しく咳き込んだ。
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