第二章 《竜の聖印》

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「はぁ・・・はぁ・・・」 「この・・・ガキがぁ―――。 許さねぇ!!!」  砕けた腕を、だらりとぶら下げ。 血走った男の目が、由鈴を睨み付ける。  だがそれを冷静に見返して、由鈴はゆっくりと立ち上がると。  構えを取り―――、地を蹴った。  その瞬間だけは、傷の事も痛みも。 何もかもを忘れ。  ただ目の前の男を倒す事だけに、意識を集中させる。 「ぐあっ・・・!!」  由鈴は風のような素早い動きで、大きく剣を振りかぶった男の懐(ふところ)へと入り込むと。 まずは鳩尾(みぞおち)に正拳突きを一発繰り出し、それにより動きを止め身を折り前のめりに倒れかけた男の顎(あご)へと、再び拳を突き上げ。  仰け反ったその側頭部に、今度は綺麗な弧を描いて回し蹴りを食らわせた。 「がっ・・・ぁ!!」  ムダの無い。 まるで流れるようなその攻撃は、ほんの一瞬の事で―――。  盛大な音を立てて地面へと倒れた男を、由鈴は見下ろし。 肩を上下させて息を切らせると、口の端に滲(にじ)んだ血をぬぐった。 「―――傍観してるなんて・・・、あまり趣味の良い話じゃないな?」 「手助けの必要は、無いかと判断しましたので」  憎らしいくらいに、淡々とした。 低く落ち着いた声と共に、由鈴の背後でふっとやわらかな風が巻き起こり。  ゆっくりと由鈴がそちらへと視線を転じると、そこには玲瓏が立っていた。  その背には、白銀の光にきらめく鱗(うろこ)に覆(おお)われた、コウモリのような大きな翼が広がり。  それを見て由鈴は改めて、彼が『竜』なのだと認識した気がした。 「・・・琳樹は、一緒じゃないのか?」 「ここから、やや離れた場所にある森に、身を隠していただいております。  あの方はまだ、翼を自在にお使いになる事が、お出来にならないようですので」 「・・・ふぅん・・・?」  少し疲れたように、由鈴は玲瓏の言葉に小さくそう返し。  顔を伏せると、脇腹を押さえた。 「・・・お怪我の方は、大丈夫ですか?」 「あぁ、うん。 平気だ」
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