第二章 《竜の聖印》

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 少し深めであったが、致命傷(ちめいしょう)というほどでもなく。 傷を圧迫して押さえておけば、大丈夫そうだ。  だが、鈍く広がる激痛が拭われるわけでもなく。 少しでも身動く度に、引きつれるような痛みがし。 由鈴は眉をしかめた。 「その男の息の根を、止めなくてもよろしいのですか?」 「―――どうして?」 「・・・また、狙われるのではありませんか?」  由鈴の返答に、玲瓏は微かな動揺を映し。 少しの間を置いて、玲瓏がそう答える。  だがそれにふっと笑みを浮かべて、由鈴はゆるやかに首を左右に振った。 「確かに、ゲスでムカつく奴ではあるけど。 出来る限りオレは、相手の命を奪ったり傷つけるような事はしたくないんだ。  甘い奴だと思うだろう?」 「・・・そうですね」  言いよどんだ様子ではあるが、嘘をつく事をしない竜である玲瓏はやがてそう頷き。  由鈴は苦笑を浮かべゆっくりと、息を押し出した。 「それにしても・・・。 本当にオレ、『竜の花嫁』になっちゃったのかぁ・・・」 「はい。 我が王がお選びになった、現存する唯一の方です」 「・・・そういえば、だいぶ混乱してたせいか気付くの遅れたけど―――。  竜の花嫁ってのは、『竜の王』の伴侶(はんりょ)の事・・・なんだよな?」  ずっと目を逸らし続け。 気付かぬふりをしていたそれに、由鈴は仕方なく覚悟を決めて向き直ることにし。  そう言葉をつむぎだすと玲瓏が頷いた。 「はい。 竜の王だけが、得る事の出来る存在です」 「―――つまり・・・。  琳樹が現在の竜王なのか・・・」  ため息混じりに、由鈴は言い。 また大きなため息を押し出すと、そのまま脱力するようにその場にへたり込む。  すると、傷口からまた激痛が走り。 顔をしかめた。 「どうか、なさいましたか?」 「・・・いや、ずいぶんとまだ小さい竜なんだなって」  そして自分は。 その竜王を、あの森で助けてしまったのかと。 今更ながらに考え込む。 「あの方は、とある事情により成竜になる事が出来ず。 つい最近まで、永(なが)い眠りについておられました。  そして竜の王であられる琳樹様を、成竜へと成長させる事が出来るのは。 聖印をお受けになられた、伴侶のみ。  つまり、由鈴さんだけなのです」 「・・・嫌だって、言ったら?」 「力ずくでも、お連れいたします。  もう十分に、お待ちしたつもりですが?」
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