第二章 《竜の聖印》

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 試しに言ってみただけであったのだが、玲瓏によってキッパリとそう言い返され。  そしてそれが、本気であるらしいと見て取って。 由鈴はまた、息を押し出した。 「伴侶って、オレはどうすればいいわけ?  花嫁修行でも、しないとならないのか?」 「いいえ。 貴方は貴方のまま、琳樹様の望まれるように、御一緒に居てくだされば」 「・・・ふぅん?」  軽く頷きながら、由鈴は考え込み。  そして何気なく、首に巻かれた包帯へと手を触れさせる。 (琳樹の望むように・・・ねぇ?)  また首に噛みつかれるのは、イヤだなと。 そんな他愛もない事を考えながら、由鈴は空を仰(あお)ぎ・・・。  不意に、玲瓏が動いたのに気付いてそちらへと視線を向けると。 彼は真っ直ぐにこちらへと歩み寄ってきて、目の前で立ち止まった。  なので、しゃがみ込んでいた由鈴の位置からであると、そんな玲瓏の顔を見上げる形となる。 「この度の事で、竜王の伴侶という存在の意味が、お分かりになったかと思います。  そしてきっとこれからも、貴方を狙う者は続々と現れてくる事でしょう。  貴方自身を狙う者と、琳樹様を狙う者―――。 その二つに貴方は、追われなければならなくなる」 「オレを捕まえて、琳樹達を呼び出そうとするのは分かるとして。  何でオレ自身を?」  キョトンと目を丸くして、由鈴は首を傾げ。  その無防備とも言える姿を見下ろして、玲瓏は彼に気付かれぬように眉を寄せ。 ゆるゆると息を押し出す。  由鈴自身は、全く気付いていないのだが。 彼の身体からは、とても甘く芳(かぐわ)しい香りがし。  その香りは玲瓏達竜や。 その血を引く、さっきの男のような存在の心を、ひどく騒がせ。 惹(ひ)き付ける魅力があるのだ。  それはもともと、由鈴自身が持っていたものもあるのだけれど。  竜王の所有の印である、聖印に込められた琳樹の気と交わった事によって。 それは、より一層に芳しいものへとなり。  竜の血を少なからずも持っている者には、彼が『竜の花嫁』であるのは明白だった。 (これほどに、芳しい香を持つ花嫁は。 今までに居なかったはずだが・・・)  歴代の花嫁も、少なからず甘く芳しい香を抱き。 それこそは竜の花嫁たる、『証(あかし)』のようだったという。
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