第二章 《竜の聖印》

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 とっさに、否定しようとしたようだが。 竜は嘘のつけない質であるため、玲瓏がすぐに頷き。  由鈴がそれに、朗(ほが)らかな笑みをこぼす。  確かに。 琳樹がまだあのように幼く、自分の身を守るのもままならない今―――。  自分の身を守る術を持ち。 琳樹をも守れる力を持つ由鈴という存在が、伴侶となったのは、玲瓏にとって喜ばしい事であった。 「オレが逃げ出しても、すぐにどこに居るのか分かるんだよな?」 「もちろんです」 「―――ふ~ん?」  小首を傾げて、由鈴はそれだけを言い。 また考え込むように黙ってしまう。  それに玲瓏は、軽く息を押し出し。  ここから離れた場所にある森に、一人置いてきた。 彼のまだ小さな主人の琳樹の事も気にかかるため。  少しでも早く戻らなければと考え、口を開く。 「怪我の手当てもしなければならないようですし、そろそろ―――」 「・・・分かったよ。 仕方ない、か―――」  不意に、由鈴がため息を吐きながらそう言い。  それに玲瓏が、微かに目を瞠る。 「由鈴さん―――・・・?」 「そだね。 花嫁だとか、伴侶だとか。 いまいち分からないし、受け入れるのも少し抵抗あるけど。  琳樹を守るための力になれるなら、一緒に居るよ」  そう苦笑を浮かべて、由鈴は告げ。  驚いているらしい玲瓏の顔を見て、少しイタズラっぽい笑みを浮かべる。 「別に、目的があって旅してたわけじゃないしね。  オレの腕を見込んでくれたのは、素直に嬉しいと思うし。 琳樹には、伴侶となるオレが、必要なんだろう?  だから覚悟するよ」  言ってしまってから、スッキリしたように由鈴は大きく息を押し出し。 次いで明るい笑みを見せる。 「琳樹の所に戻ろう。 考える時間をくれて、ありがとうな?」 「いえ・・・」  口ごもる玲瓏の様子に、気づかぬままに。 由鈴は適当な方角を決めて歩きだし。  それに数歩で追い付くと、玲瓏は後ろからすくい上げるように彼を抱き上げた。 「うわっ・・・!」  脇腹の傷に触らぬようにと、俗に言う『お姫さま抱っこ』というものをされて。 由鈴は動揺し、羞恥に頬を赤く染める。  だがそんな彼を気にする事もせずに、玲瓏は広げた翼をはためかせて。 青い空へと舞い上がった。 「えっ!ええぇ~!!?」 「じっとしていて下さい。 傷に触ります」 「いやっ!ちょっ・・・!?」
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