第二章 《竜の聖印》

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 有無を言わさずに、玲瓏は風のように空高く飛び。  あまりの高さと、身体を支えるのが玲瓏の腕だけという状態に。 由鈴はつい緊張し。 身を固くする。  だが次第に、頬に触れる風の心地良さと。 下界を流れていく美しい景色に、由鈴は目を輝かせた。 (うわぁ、すごく高い! けど風が気持ち良い! 空近い!!)  無意識の内に、玲瓏の服を掴んでいるのにも気付かぬままに。 由鈴はどこまでも広がる景色を見渡して、嬉しそうにする。  そしてやわらかな薄茶色の髪を、風に揺るがせ。 まるで子供のように頬を上気させた、由鈴の無邪気な姿を。 玲瓏は少し眩しそうに見つめていた。 (―――不思議な方だ・・・)  もちろん、由鈴と初めて会った時。 彼が琳樹の伴侶に選ばれるなどという事は、考えもしなかった。  だが今までに玲瓏が見てきた人間の大半は、自分達が『竜』であると知ると。 獰猛(どうもう)な獣(けもの)を見るかのように、恐れるか。  自分達が持たぬ、偽(いつわ)りの言葉を使い。 騙(だま)し。 罠にかけて捕らえようと追ってくるような、欲深い者達ばかりであったというのに。  由鈴という存在は、そのどちらでもなく。 臆しもせずに、真っ直ぐに向かい合ってきたその姿に。 玲瓏は興味を抱いたのだ。  竜を相手にしても、屈託(くったく)なく笑い。  へつらいもせずに、本心から紡ぎ出されるその言葉には、嘘は無く。 いっそ清々しいばかりで―――。  人の身でありながら、玲瓏の剣をスルリと。 まるで舞うかの様に避けて見せた、その抜きん出た技と力にも。 少なからず驚かされたものだった。 「あの森に琳樹が?」 「えぇ」  足元に見えてきた森を示して、由鈴が言い。  それに軽く頷いて、玲瓏はゆっくりと降下し。 その入り口辺りに降り立ったと同時に、森の中から琳樹が駆けてきた。 「ゆすず~!!」 「琳樹っ!」  無邪気な笑顔を浮かべてこちらへと駆けてきた琳樹の姿を見つめて、由鈴もまた笑み。  玲瓏に気遣(きづか)われながらも、彼の腕から降ろされて地に足を付ける。  と。 彼の前まで来て、突然琳樹は眉をよせると。 飛び付くように由鈴の服を掴んだ。 「血の匂いがする! 由鈴、ケガしてるの!?」 「え・・・? あぁ、うん」
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