第二章 《竜の聖印》

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 まだ鈍く痛みはするものの。 すでに出血は治まっているので、あまり気にしていなかったのだが。  琳樹はひどく心配した様子で、彼の脇腹を染める血を見つめて。 悲しそうにする。 「見せて!由鈴!」 「えっ!? ちょっ・・・大丈夫だって。  もう血も止まってるし。 傷も浅いし」  だが、そんな由鈴の言葉も聞かずに、琳樹は彼のシャツを無遠慮にまくり上げ。  血が乾き、傷口に張り付いていたらしいそれを乱暴に引き剥(は)がされて。 由鈴が痛みに、微かに眉を寄せる。 「琳・・・樹?」  一体何をするつもりなのかと、由鈴が訝(いぶか)しげにした時。  露(あらわ)にされた傷口を、少しの間じっと見つめていた琳樹が。 おもむろにそこへ唇を寄せ、そっと舌を這(は)わせた。 「んなっ・・・!? 琳樹!!?」  予想外の事に、由鈴は言葉を失い。  動揺を映して、頬を紅潮させ。 とっさに身を引こうとした彼の服を掴んで、琳樹はそれを阻止すると。  微かに震える―――。 白く、肌理(きめ)の細かい柔らかな肌に付けられた傷口を、何度も舐(な)め。  その周りについた血も全てキレイに舐め取ると、やっと琳樹は由鈴を解放した。 「これでもう、大丈夫!」 「え・・・?」 「もう、痛くないだろ?」  琳樹が、無邪気な笑顔と共にそう言い。 それに由鈴は目をみはる。  そして軽く脇腹の傷へと手を触れさせて。 また目を瞬かせた。 「あれ・・・?」  傷口が完全に癒(い)えたというわけではないようだが、痛みは引き。  改めてその傷を見て、由鈴は目を丸くする。 「えへへ~、すごいだろ!」  驚く由鈴の顔を見上げて、琳樹が自慢(じまん)げに笑い。  耳打ちするように玲瓏が、竜には飛び抜けた治癒力があるのだと教えてくれた。 (比べるのも、どうかと思うけど・・・。  獣がケガを負った時に、自分の傷口を舐めて治すのと。 同じ事かな・・・?)  それにしても、すごい治癒力なのだなと由鈴が感心していると。  不意に琳樹が、しょんぼりとした様子で顔をうつむかせた。 「そうだ・・・。  オレ、由鈴にまた会えたら。 謝らないといけないと、思ってたんだ」 「え?」  それにまた由鈴が驚いていると。 琳樹がおずおずと、大きく澄んだ藍色の瞳で上目遣(づか)いに見上げてきた。
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