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01.真夏の太陽の下ではしゃぐプールのような
「桃奈ってチョコミント味のアイス食べたことないんだ?」
めずらしい生き物を初めて目にしたときのような顔の海斗。
「うん。だって歯みがき粉みたいな匂いがするじゃん」
私の言葉に大きくうなずく海斗。わかるわかると告げるように。
「歯みがき粉ね、たしかにチョコミントアイスが嫌いな人は、みんなきまってそう言うね。歯みがき粉の味だって」
その言葉の一瞬のあと、海斗はイタズラっぽく提案。
「じゃあ、チョコミント食べようよ。一緒に食べれば大丈夫!」
コンビニまでの道のり。私と海斗は語り合っていた。互いにどんなアイスが好きか嫌いかを。付き合いはじめて二ヶ月の夏のはじまり。
たどり着いたコンビニで二つ買ったチョコミント。私と海斗はさっそくアイスの包みを開く。近くの公園の青空の下。
手にしたままのチョコミントに、私はどうしてもかじりつく勇気が出ない。チョコの匂いにかすかに混じる歯みがき粉みたいなミントの匂いが、かじりつくのをためらわせる。
「食べてみればおいしいって。俺はチョコミント好きだけどな。それにほら、溶けちゃうよ?」
海斗の勧めるまま、私は生まれて初めてのチョコミントをひと口かじる。興味津々な海斗に見つめられながら。
その途端、口の中でチョコの存在感のある甘さとミントのすうーっとした清涼感が混ざり合う。真夏の太陽の下ではしゃぐプールのような。
歯みがき粉と似ているようで、それでいて方向性が違うさわやかな清涼感に、私は思わず目を見開く。
「な? 俺のいうとおり、なかなかイケるだろ?」
「うん」
次のひと口を齧りながらうなずく私へ嬉しそうに笑う海斗。それは私がずっと見ていたい海斗の笑顔。
それからの私はすっかりチョコミントが好きになってしまった。海斗を好きだった気持ちと同じくらいに。ある意味で、海斗とチョコミントがイコールで結び付けられたと言ってもいいかもしれない。
そんなふうに、海斗と過ごす日々はいつも「特別な一日」。海斗と一日過ごすごとに、私は一日ずつ変わっていったから。今までの私から、新しい私へと。
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