よるに咲く花

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おじちゃんは俺が10歳のときに死んだ。俺を助けて死んだ。俺が殺してしまったも同然なんだ。そう自分に言い聞かせないと誰がおじちゃんを殺したのと俺が騒ぎそうになるからだ。 あの日は眩しいくらい、いい天気だった。休みの日だったので家族でハイキングに行った。もちろんおじちゃんも一緒。帰り道で、信号を渡っていた。 。俺は赤信号で渡っていた。ちょうど左側から車が来ていた。おじちゃんはそれに気づいて俺を助けようとした。腕を強く引っ張られたかと思いきや、キキーッという車のブレーキの音がして俺は目を見張った。俺がいたところにはおじちゃんの身体があった。首と身体が離れていた。辺り一面血の海で俺は心臓が飛び出るかと思ったほどだ。想像するだけでもおぞましいのに、目の当たりにしてしまった。これが俺に植え付けられたトラウマ。おじちゃんが俺の身代わりになってしまった…いっそ俺が死んでいれば、と思ったこともあった。 なぜか分からない。なんで俺はあのとき赤信号で渡ったのだろうか。信号が赤になっていたのに、それに気づいていたはずなのに…なぜ?親は俺が死ぬんだと思って顔を手で覆い、目を閉じていた。俺の親は自分を犠牲にはしなかった。おじちゃんみたいに。人間必ず自分か家族かを選べと言われたら自分を選ぶだろう。そういう生き物なのだ。だから別に親を憎んではいない。しかし今回のおじちゃんの行動はそんな理屈を覆すものだった。俺はそんなおじちゃんを今も誇らしく思っているし忘れられない存在として俺の心の中で生き続けているんだ。
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