全自動告白装置を使う際は告白内容をお選びになれませんので注意してください。

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「お前、『全自動告白装置』を発明したってほんとかよ!」 「ああ、本当だ」  変わり者として有名な、発明部部長である勅使河原は答える。 「どうしてそのことを知っている?」 「お前が昼の放送で流したんだろ。自動的に告白できる『全自動告白装置』を発明したから、興味がある人は放課後発明部へ来いって」 「そういえばそうだったか」 「勝手に放送室使って先生にみっちり説教受けたのに忘れんな」 「それで、君は誰かに告白したいのか? この間は僕に『俺は野球一筋だ。甲子園に行ける装置を発明してくれ』って言ってたと思うが」 「悪いかよ。高校生活、野球も恋愛も全力投球よ!」 「やめてくれ暑苦しい。それで、誰に告白したいんだ」 「野球部のマネージャーで後輩の貴美ちゃんに告白したいけど、断られたらと思うと勇気が出ねーんだよ」  勅使河原の同級生である小山は照れたように鼻を掻いた。 「じゃあ貴美ちゃんとやらを連れてこい」 「は? 今からかよ」 「当たり前だろ。何しにここに来たんだ」 「それは……」 「告白する気がないなら帰れ。僕は忙しい」 「分かった! 分かったからちょっと待ってろ」  小山は慌てて部室を出ていった。  数分後、小山は女子生徒を連れて戻ってきた。村田貴美。小柄で可愛らしく、温和な人柄で学園内でも人気の高い生徒だった。 「あの……ここは一体どこでしょうか」  村田は何も知らずに連れてこられたようだった。 「実は、ちょっと聞いてほしいことがあるんだ」  小山は「ほら、装置装置」と勅使河原を急かした。 「ああ、じゃあ早速装着させよう」  勅使河原は金属製のヘッドギアのような装置を小山の頭に取り付けた。 「いくぞ。スイッチオン!」  小山は後輩である村田の瞳を見つめた。村田の頬がほのかに赤く染まる。 「実は俺……足の親指の爪に詰まった黒いやつの臭い、つい嗅いじゃうんだ」 「は?」村田の口から小山が聞いたことない低い声が漏れた。 「おい! どうなってるんだ、話が違うじゃないか」  小山は勅使河原に詰め寄った。 「ああ、言い忘れたが告白の内容は胸に秘めた思いをランダムで自動的に発する。今の告白が伝えたかったことじゃなかったのか?」 「誰が爪に詰まった黒いやつのこと告白するんだよ! 貴美ちゃん引いてるじゃんか」  勅使河原が村田の方を見ると、小さい顔を引きつらせていた。 「仕方ない。数撃ちゃ当たると言うし、愛の告白を引き当てるまで告白を続けよう」 「それしかねーのかよ――!」  勅使河原はスイッチを押した。 「実は俺……中学の頃、自分の中に三つの人格がある設定で生活してたんだ」  勅使河原はスイッチを押した。 「実は俺……補欠だけどミサンガ巻いてる数だけは野球部で一番多いんだ」  勅使河原はスイッチを押した。 「実は俺……音楽はキング・ヌーしか聞かないって言ってるけどほんとはアイドルの曲しか聞かないんだ」  勅使河原はスイッチを押した。 「実は俺……、鼻くそほじった後はつい指で弾いてその辺に捨てちゃうんだ」  勅使河原はスイッチを押し……かけて手を止めた。  もうやめてくれ、小山の目がそう言っていた。村田に目をやると、なぜか涙目になっていた。 「私、小山君のこと、ちょっといいかなって思ってたのに、私にそんなこと聞かせるなんてひどいよ……」  村田は駆け出して、部室を出て行ってしまった。 「どうしてくれるんだよ!」小山は叫んだ。 「どうしてくれと言われても、僕は装置を貸してやっただけだ」 「嘘つけ、こうなることが分かってて装置を試したんだろ!」 「そんなことは……」  二人は村田が出ていった部室のドアを見つめた。  村田は体育館裏で泣いていた。  手分けして村田を探すことになり、先に村田の姿を発見したのは勅使河原だった。 「……大丈夫か?」 「大丈夫じゃないです」村田は顔を上げずに言った。  勅使河原はどう声を掛けて良いか分からなかった。自分の手を見ると、告白装置を握ったままであることに気づいた。勅使河原は自分の頭に装置を取り付けた。 (スイッチ、オン) 「実は僕……君のことが好きだった」 「え?」 「村田さんと小山が仲良くならないように、僕が発明した装置で小山を邪魔しようと思ったんだ。さっきの告白は小山が本当に伝えたかったことじゃない」  パシン! 乾いた音が体育館裏に響いた。 「先輩、ひどすぎます」  村田はまた走り去ってしまった。  勅使河原は痛む頬を押さえながら、村田が出ていった後の小山とのやり取りを思い出していた。 「一目惚れだったんだ。去年の春、貴美ちゃんは野球部にマネージャーとして入ってきた。自己紹介する貴美ちゃんを見て、胸のどきどきが抑えられなかった。それからは気づけば練習中も貴美ちゃんを目で追ってたし、廊下を歩く時も姿が見えないか探してた。プレゼントを渡したりして、少しずつ仲良くなれたと思うんだ。でも、それまでの関係を壊してしまいそうで、告白だけはどうしてもできなかった」 「……」 「貴美ちゃんのこと探してくる。やっぱこんな機械に頼らずに、自分で伝えなきゃ」 「……」 「ありがとな、勅使河原」 「……僕も探そう」 「え?」 「僕も探すと言っている」  勅使河原は珍しく、唯一の友人の熱い思いに打たれていた。 (これで良かったんだ)  勅使河原は頭に取り付けた告白装置を外した。もちろん装置のスイッチは入っていない――訳ではなかった。 (せっかく憧れの村田貴美さんと仲良くなれるチャンスだったのに、どうしてくれる)  勅使河原も村田のことがめちゃくちゃ好きだった。 (小山の告白を邪魔するために告白装置の機能を『愛の告白』から『秘密の告白』機能に切り替えて小山に使ったというのに、『罪の告白』機能を使ってそのことを村田さんにバラしちゃうなんて、僕らしくない)  でも仕方がない、と勅使河原は思った。小山ほどの思いを自分が持っていると思えなかった。なにより小山は友達だった。  部室に戻ると小山と村田が勅使河原を待っていた。 「ごめんな、俺のために嘘までついて誤解を解いてくれたんだってな」小山は頭を下げた。 「ごめんなさい、私、そんなこととは知らずに勅使河原くんのこと思い切り叩いちゃって」村田も何度も頭を下げた。 「それで、お前には一応言っときたいんだけど」小山は村田と顔を見合わせた。「俺たちお互いの気持ちに気づいて付き合うことになった。お前と、その機械のおかげだよ」 「ふん、君たちが勝手にやったことだ。僕はこの『全自動告白装置』を試したかっただけだ」  勅使河原は強がった。この忌まわしき装置は近いうちに破壊しよう心に決めた。  翌日のことだ。 「どうして君たちがここにいるんだ」  勅使河原が発明部部室に入ると小山と村田が座っていた。 「テスト期間に入ったから彼女と一緒にここで勉強しようと思って」 「ふざけるな」 「ところでテストでいい点が取れる装置ってないかな?」 「それが目的か」 「ないの?」  勅使河原は無言で小山の頭に告白装置を取り付けるとスイッチを押した。 「実は俺……小学四年生の頃に下校中トイレが我慢できなくて――」 「やめてー」  村田の叫びが部室に響き、勅使河原は泣きそうになりながらも可笑しくて少し笑った。
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