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どのくらい経ったのか。
目を開けると、まだ白衣の胸の中にいた。
しかし、意識が戻ったことを白衣の相手も気づいたようで。
「気がついたか」
そう言って、手首を取って脈を診られた。
「身体を起こした方が呼吸しやすそうだったから」
ずっとこうしていてくれたらしい。
「……ごめん」
すると貴之はふっと笑った。
「お前そればっかだなー。なら自己管理をキチンとしろよ」
それは少し反省するところ。
しかし、貴之は思わぬ方向から説教を始める。
「ちょっとは考えろよ。
これからお前が結婚した時に、この姿を嫁さんや子供に見せるのか?」
え、と比呂は思わず止まった。
そうなのか、と思ったのだ。結婚して子供ができたりすれば、貴之はこうやって助けに来てくれなくなるのか。恋人もいなければ、結婚する予定も子供を作る予定もないが、寂しさが急激に込み上げてくる。
貴之が来てくれないなんて……。
「そんなの、やだよ……」
拗ねたように反論する。嫌すぎて視界が潤む。
しかし、貴之は嘆息して、まあとりあえず寝ろよ、と比呂の駄々をいなした。
「喘息の原因は分かっているだろ。疲れだよ。おまえ、最近夜遅くまで外出しすぎ。少し翌日のことを考えて自重しなさい」
いつもの幼馴染のお説教に少しだけ安堵して、比呂は深呼吸しながら頷く。
「どうする? ベッドで寝るほうがい?」
そう言われたが、このままがいいと白衣にもたれかかる。
「あれ、まだ泣いてるのか? しんどい?」
貴之の問いかけに比呂は首を横に振る。
「ううん。……ずっと、いて」
僕のそばに。
わかった、と貴之が頭を撫でてくれる。
「安心して寝ろ」
比呂も頷いた。
俺はお前を手放すつもりも、この立場を辞めるつもりもないからな……。
頭上からそんな声が聞こえてきた気がして、比呂は安堵して眠りについた。
【了】
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