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あの、河島と…?私は到底信じられなかった。河島は確かにうちの課の中で一番若い男社員だけれどそれでも三十代後半くらいだろう、並木さんとは年の差もあるし二人が話す姿もあまり見たことがない。何より、彼もまた並木さんと同じ、真面目でそんなことしそうな人間には見えないからだ。
「すみません、驚きますよね…。」
彼女は言葉を選ぶように、慎重に言葉をポツリ、ポツリと落としていく。
「やっぱり不倫なんて、最低ですよね…?」
「うーん、そうねぇ…。」
「わかってるんです、自分でも…。」
「うん…。」
正直この年にもなれば、知り合いの誰かの不倫話だって耳に入ってくることもあるし、そこまで驚きはしない。しかもその関係性が近ければ近いほど何故か「あんた最低よ!」とすぐに言い切れなくなるのが不思議なもので。有名人の不倫のニュースだったらすぐに最低だって思うくせに。
今回の場合もそうで、彼女達を強く否定する気持ちにはなれなかった。
「駄目だとわかっているのに、
この気持ちを抑えきれなくて。」
「こんな自分は本当に最低だと思うのですが。」
「でも、こんなに好きになれる人に
私はもう一生出会えないような気がして。」
彼女の中に降り積もっていたものがじわじわと溶けていくのがわかる。暗闇と静けさのせいか、彼女の声はより悲しく、痛々しくて胸にグッと突き刺さる。
「本当に失礼な質問だとはわかっていますが…。もし、佐田さんのご主人が不倫をしていたら、やっぱりとても悲しいものですよね…?」
「うーん…そうね…。」
正直そんなこと、考えることさえなかった。
夫に限ってそんなことする筈なんかない、と…。
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