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私達は暗闇の中、デスクだらけの迷路をスマホの光を頼りに進んだ。なんだか小学生の時の手作りお化け屋敷を思い出して童心に返ったのは私だけでは無いみたいだった。
給湯室に着く頃には二人の笑い声だけがあたりに響きわたっていた。まさかこんなことになるなんて、1時間前までの私達は知らない。
音もない光もない、その中で食欲を強く刺激するその香りはより一層私達を焦らした。蓋を開けると湯気が顔にもわっと生暖かく触れる。お互いによっぽどお腹が空いていたらしく、夢中で手と口を動かしていく。
ふぅーっふぅー、
ずるっ、ずるるっ、はふっはふ。
体が少しずつ温まっていく。
「ねぇ、並木さん。」
「はい。」
「私ね、あなたに何か偉そうなこと言えるほどの人生経験もないし、助けてあげられるほどの言葉も言えないけれど、これだけは言える。私は苦しいと泣いているあなたより、こうして一緒にラーメンすすってくれるあなたが好きよ。…もしまた苦しくて泣きたくなったら今度はカップラーメンじゃなくてお店に食べに行こうよ。」
彼女は多分、こちらを見つめ、うん、と頷いた。
「佐田さん。私、今日、佐田さんに話せたことで気持ちの整理がつきました。やっぱり私、今のままじゃ辛いです。きっとこの先もずっと。」
「うん。」
「彼とは距離を置くことにします。でもきっと罪悪感と寂しさでまた苦しくなっちゃうけど…。
でも、佐田さんとまた美味しいラーメンを食べられるなら、頑張れそうな気がします。」
「いつでも付き合うからね。」
「こんなこと言うのおかしいかもしれないですけど、今日、停電して良かった…。あの暗闇と静けさの中で無ければ、きっとこんな相談出来なかったと思うから。」
「私もよ、おかげで並木さんとすごく距離が縮まった気がするもの。次の約束もできたしね。」
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