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それからしばらくして電気は復旧した。数時間ぶりの蛍光灯の光は目が開けられないほどに眩しかった。PCの唸る音、暖房器具が風を送る音、いつもの社内と変わらぬ景色。あぁ、並木さんってこんなにチャーミングに笑う人だったんだ。
そして私達はまた何事も無かったかのように仕事の続きを開始した。
彼女はたしかに間違えたかもしれない。きっと私が妻なら彼女を許すことができないだろう。でも彼女もまた悩んで、傷ついた。本気で彼を愛していたのだろう。私の角度から見える彼女は、誰よりも純粋に人を愛していた。この経験をバネに、今度こそ本当の幸せを掴んでほしい。もう彼女は人を苦しめる愛も、自分を苦しめる愛も、必要としていない筈だから。
帰宅後、私は覚えていないくらい久しぶりに夫の顔をじっくりと見た。
「なに、そんなに見つめて。」
「…愛してるよ、いつもありがとう。」
「…雪と寒さでおかしくなったのか?」
「ふん、もう二度と言わないからね。」
「…うん、俺も。」
こそばゆい静けさの中で、確かなものを感じれた気がした。
誰だって、誰一人としてその人の全てを知ることなんて出来ない。全ての真実は結局のところ、本人にしかわからないのだから。今日並木さんと話したことは実は夢だったんじゃないかとさえ思う。その衝撃に私も考えさせられることがあったけれど、今、目の前の人の顔を見て出た結論は…
私は、私が知っているこの愛をただ信じるだけ。
本物かどうかは私自身が決めれば良いのだから。
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