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パタリ、と後ろ手に扉を閉めると、しんと静まった自分の部屋がなんだかよそよそしく感じられた。
リビングから漏れるテレビの音も、パパとママの話し声も聞こえなくて、ちょっぴり、さみしさがこみあげてくる。
ミトは、やっぱりママに絵本を読んでもらおうか、と本棚を見た。ちょうど目線の高さにあった『メリークリスマス、ペネロペ!』という本の表紙の、青色のコアラと目が合った。最近のお気に入りで、昨日も読んでもらったばかりだ。
「きょうは、とくべつだから」と、自分に言い聞かせて、笑顔をつくる。いつもは絵本の読み聞かせのあと、ミトが眠るまでパパかママが添い寝をしてくれるのだが、それを自分で断ったのだ。
さみしさを紛らわすように、ベッドの枕元に置いてあるうさぎのぬいぐるみを左手に抱っこした。ふわふわで、元気が湧いてくる気がする。
そして、ミニテーブルの前に座った。お昼の間に趣向を凝らした飾りつけを眺めては、満足そうに微笑む。
大人っぽくて、お上品な、白いレースのテーブルクロスを引いたミニテーブル。
このテーブルクロスは「来客用のものだから、汚さないように、今夜だけね」とママが特別に押し入れの奥から出してきてくれたものだ。たった一枚の布なのに、これだけで一気にお姫様に変身したみたいに思えた。
それから、ミトのおもちゃの中でもえりすぐりの、きらきら輝くプラスチックの宝石やビー玉を入れた透明のケースをいくつか置いて飾った。
手のひらサイズのねこやぞうのぬいぐるみたちも、何匹か乗っけて可愛くした。
右上に、金色と銀色の折り紙のハートがふたつ。これはママとたくさん練習して作ったものなので、これまでで一番うまく折れた自信作だ。
中央には、なにも入っていないお皿が置いてある。
花柄の折り紙で作った紙皿で、これも、もちろんミトが折った。
ミトはそっと、パジャマのポケットに右手を差し入れた。
ママたちには気づかれないように気を付けて、戸棚から失敬してきたチョコクッキーを、大切そうに取り出してお皿の上に盛った。
部屋の隅にある引き出しを開けて、みっつほど飴玉も持ってきた。これも、数日前にこっそり隠しておいたお菓子だった。
お皿の横には、お手紙。
最近、幼稚園で習ったばかりのひらがなで「さんたさんへ」と書いてある。
一瞬だけ、「もしミトの字読めなかったらどうしよう」と不安になったが、パパが「ミトはすっごく上手に字を書くねえ、パパより上手かも」と褒めてくれたので、きっと大丈夫だろう。
サンタさんへのお返しの用意は、完璧だ。きっと喜んでくれるだろう。お菓子もお手紙も、ハートの折り紙も、ミトにとって精一杯のお礼の気持ちだから。受け取ってくれるといいなとミトは思う。
それに。
明日の朝起きたら、いったいどんなプレゼントが置いてあるだろう。サンタさんは、ミトになにを持ってきてくれるのだろうか。
そのことを考えると、明日の朝が楽しみで楽しみで、仕方がなくなった。
早く朝になってほしいので、ミトはもうベッドに入って寝てしまおうと思う。
少しでも良い子だと思われたいので、履いていた、くまのふわふわスリッパも、今夜は雑に脱ぎ捨てず、きちんとベッド脇に揃えておいた。
ベッドに上がって、横になる前に、ふと、窓辺に手を伸ばした。少しだけカーテンを開けて、外を見てみる。
月明かりにしっとりと浸された街の景色は、なんだかいつもと違って見えた。
なんだか、そう。ミトの部屋みたいによそよそしくて、そわそわと浮かれているような。少しの緊張と、昂揚。
ミトはしばらく月を眺めてみては、トナカイの引くサンタさんのそりが通らないかな、と待ったが、だんだん眠気が増してきたので、カーテンを閉めてしっかりと毛布をかぶった。朝は、もうすぐそこにある。
サンタさん、待ってるね。おやすみなさい。
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