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今であり5年前のあの日
京太郎にとって、始まりはその少女との出会いだった。
少なくとも、その頃はそう思っていた。
その日が、自分にとっていちばん特別な日だって。
中学三年の初夏に転校してきた璃々は、先生の横で自己紹介をしているときから、ずっと京太郎を見ていた。
「僕は宮野璃々、父の仕事の都合で長野から東京へ引っ越してきました」
僕という一人称を使っているが、それ以外は特に少年っぽいところは無く、どちらかといえば華奢な感じの綺麗な少女だった。
やたらとじろじろ見られているなとは思っていたが、璃々は転校初日からなぜか京太郎にべったりで、押しかけてきた許婚なんじゃないかってマンガみたいな冷やかしを受ける。
だが、正真正銘赤の他人、今日会ったばかりの相手だ。
そんな璃々が、下校中も京太郎にくっついてきて言ったのは、奇妙な言葉だった。
「君はこの世界に存在する人間は、本当は自分一人なんじゃないかと思ったことはないかい?」
そんなの、誰だって一度ぐらい思ったことあるだろ。
一度ぐらいなら。
中には、そんな妄想をこじらせて周囲の人間に心を閉ざしてしまう奴もいるだろうけど。
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