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しかし、前を通るのはサッカー部や男子バスケ部といった男子生徒ばかりである。流石に異性に声を掛けるほどの勇気は無かった。
校舎の壁に背を預け、陰から空を見上げていると頭が冷静になっていく。ここで女子を捕まえたところで、理由を話せないことに気付いてしまった。
人気のある横田先生を貶める発言などしようものなら、もれなく勘違い女の称号が付いてくるに違いないのだ。
──せめて、友達が多かったら話しは違ったのかもしれない。
楽しそうに笑い声を上げながら、目の前を同級生が通り過ぎていく。誰も陰にいる咲登子には気付かなかった。
は、と笑みが漏れる。もしかしたら、横田は親切で言ってくれていたのかもしれない。だとすれば、自分はとんだ自惚れ野郎だ。
「…………かえろ」
ぽつりと呟いたその時、目の前に誰かが立ち止まる。
「お…………貞子か?」
その声に顔を上げた。見上げた彼の背後には外灯があり、チカチカと眩しい。
「暗闇に立ってると余計に貞子感増すぞ」
「げ、桐谷…………」
嫌そうにして見せる態度とは裏腹に、咲登子の中にはみるみる安堵の気持ちが溢れた。
桐谷の隣には皺のない制服を纏った男子学生が居る。ひょこっと顔を出すと、屈託のない笑みを浮かべた。
「どもっす、……琥太郎の彼女?」
「ちげーよ、一応小学校ン時からの先輩」
先輩の単語を聞き、咲登子は急に己の立場を思い知らされた気持ちになる。
だが、桐谷は真面目な表情で陰に入った。そして咲登子の顔を覗き込むように屈む。凛々しい三白眼に見詰められると、無意識に心が揺れ動く。
「……何かあったか?すごいブサイクだぞ」
「ブサイクって……。あんたね!」
思わず声が出た。しかしそれは情けないことに少し震えている。もうあの頃とは違うため、弱さは見せられないと顔を背けた。
「と、友達を待ってんの」
「ふーん?」
「先輩、多分残ってんのは陸部と野球部だけっすよ。ほら、この部活案内のパンフに時間書いてあるっす。俺らは見学だから少し早めに解散になったんすけど……」
桐谷の友人はそう言うと、ぐしゃぐしゃになったパンフレットを差し出す。
一人で帰ることを決めていた咲登子には、どの部活が残っていようと関係ないのだが、折角だからと目を通すフリをした。
「……本当だ。じゃあ一人で帰ることにするかな、ありがとう」
視界の端では家方面へ向かうバスが通り過ぎていった。それに心の中で落胆しつつ、平気な素振りを見せながら片手を振ってみせる。
「おい、貞子」
「何?」
「……門のところで待っていろよ。居なかったらジュース奢らせるからな」
桐谷はそう言うと、咲登子の返事も聞かぬまま、友達を連れて駐輪場の方面へ駆けて行った。
「……え…………」
今何と言われたのかと咲登子は耳を疑い、唖然とする。冷たい夜風に吹かれているのに、ただ頬だけが熱かった。
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