陰へ手を差し伸べて

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 一時間に満たないくらいで地元に着き、解散した。家へ向かいながら、咲登子は空を見上げる。いつもよりも月が明るく見えた。  少し歩みを進めたところで、後ろからチリンとベルが鳴らされる。振り向くと、そこには後を追ってきた桐谷がいた。 「き、桐谷?」 「……俺さ、多分陸部に入る。んで近くでバイトもするんだけど、月木は何も入れないつもり」  どこか脈絡を得ないその言葉に、咲登子は小首を傾げる。  言いたいことが伝わっていないと感じた桐谷は、頭を搔いた。 「だ、だからさ。その曜日なら一緒に帰ってやっても良いぜ。図書館居たいんなら……だけど」 『暇なの?一緒に遊んでやっても良いぜ』  その決して素直では無い言い方に、(小学生)の彼が重なり、思わず笑みが溢れた。 「…………ありがと。でも、いいの?」 「何が?」  あの子(彼女)とは別れたの、とは聞けなかった。 「と、友達とか……。部活帰りに何処か寄ったり……」 「いや、あの辺何もねえからさ。とりあえず連絡先交換しとこうぜ」  桐谷はそういうなり、自分のスマホを取り出す。スムーズにSNSのQRコードを出した。  咲登子も慌ててスマホを出すと、それを読み取る。海のアイコンで、"KIRIYA"と書かれたアカウントが友達へ追加された。  対して咲登子のアイコンはパンダである。そういえば昔から動物が好きだったなと口角を上げた。 「ん、さんきゅ。じゃあまたな」  桐谷は片手をひらひらと振ると、今度こそ去っていく。  家へ帰れば、母からは風邪を引いたのかと指摘される始末だった。
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