擦れ違う風

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 次の日、ホームルーム後の掃除を終えた咲登子は帰る支度をしていた。桐谷に言われたからでは無いが、髪を巻くのを止めた。そして目元にはコンタクトでは無く、メガネが光る。  だが、亜未はそれに触れなかった。咲登子の目元が少しだけ赤く腫れていることに気付いたからである。話してくれるまで待とうと決めたのだ。  そんな亜未の心配を知ってか知らずか、咲登子は笑みを浮かべて机に近寄ってくる。 「亜未、帰ろ」 「あれ……今日は図書館いいの?」  あえて桐谷の名は出さない。 「うん、たまにはね。本屋にでも寄ろうかなって」 「それなら、うちも行ってもいい?ついでにお茶しよっ。」 「オッケー。亜未が行きたがっていたカフェ行こうよ」 「やった、そう来なくっちゃ!」  屈託のない笑みを浮かべる親友(亜未)の顔を見て、咲登子は元気を貰ったような心地になった。  二人は会話を交わしながら階段を降り、昇降口で靴を履き替える。そして正門へと向かった。  ふと咲登子の足が止まる。それに気付いた亜未はその視線の先を追った。  そこには桐谷の姿がある。スマホを気にしており、まるで誰かを待っているように見えた。  咲登子はごめんと言いつつ、亜未の袖を引くと正門に近い壁の裏へ隠れる。  暫くすると、 「……琥太ー!ごめん、待ったー?」 ──……?  その呼び方と声には聞き覚えがあった。あの卒業式の日に、桐谷へ抱き着いた可愛い女子だと脳が警鐘を鳴らす。 「待った。早く行こうぜ」 「ごめんごめん、担任の話しが長くてさぁ……」  前のように腕は組まないものの、二人は仲良さげに歩いていく。  風に揺れるふわふわの髪を見送りながら、咲登子は目の前が暗くなるのを感じた。鉛が乗ったように身体が重い。 ──そういうことか。全て私の一人相撲だったんだ。今まで一緒に帰ってくれていたのはただの優しさで、今日帰れなくなったっていうのは、彼女(あの子)とデートがあるからだ。  鼓動が嫌な音を立て、息がしづらくなる。 「咲登子…………」  今の今まで、亜未は桐谷の顔を見た事がなかった。しかし、この反応であの男子学生がそうなのだと察する。  驚きよりも悲しみに彩られた瞳に浮かべられた水の膜は、瞬きと同時に頬へ滑り落ちた。  きっと今泣くつもりでは無かったのだろう。堪えきれずに積年の思いが溢れたようなそれを見て、亜未はそっと咲登子の手を取った。 「……こっち、歩ける?」  酷く優しい問い掛けに、咲登子はこくんと頷く。大人しく手を引かれ、近くの公園へと足を運んだ。  咲登子は亜未に抱き締められながら、初めて声を上げて泣いた。  そして今度こそ全て断ち切ろうと決意をする。
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