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さよなら、浅き春
そうして時は過ぎて三月。卒業を間近に迎えた三年生は、卒業式の練習のためだけに登校していた。
「咲登子、久しぶりー!すごい髪伸びたね〜。折角だから前みたいに巻けばいいのに」
久々に会ったクラスメイトが、卒業アルバムを手に咲登子の机へ来る。皆で自由欄にコメントを書き合っていた。
彼女の指摘の通り、咲登子は髪はただ下ろしっぱなしである。勿論、コンタクトもなし、化粧もせずと四月の状態へと戻っており、ただ髪が伸びただけだった。
「気が向いたらね。……はい、書けた」
「ありがとう。引っ越しても連絡取ろうね!」
「うん。いつでも連絡してよ」
愛想笑いを返すと、咲登子は机へ顔を伏せつつ窓の外へ視線を移す。すると机の前に誰かが仁王立ちした。
苦笑いをしながら見上げれば、親友はどこか真剣で切なげな表情を浮かべている。
「亜未」
「……ねえ、咲登子。余計なお世話かも知れないけれど……良いの?桐谷君のこと……」
亜未は前の席の椅子に跨ると、心配そうに咲登子を見た。
「……うん、案外吹っ切れてるんだよー?これでも」
そう言うなり、口角を上げてみせる。きっと上手く笑えたはずだ。
「…………そっか。あっ、私も咲登子のページに書きたーい!ねえ、渾身の作品を書いてくるからさ。少し貸してくれない?悪いようにはしないって」
「別に良いけど…………」
「ありがとー!」
渾身の作品ってどういうことだろうかと思いつつ、机の中から卒業アルバムを取り出して亜未へ手渡す。
亜未はそれを手に、いそいそと何処かへ行ってしまった。
やがて手元へ戻ってきたが、絶対に家で見るようにと念を押された。
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