さよなら、浅き春

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「……明日は卒業式か」  咲登子は自室の窓から夜空を眺めては、独りごちる。部屋の中は引越しのダンボールで溢れ返っていた。 ──色々とあった高校生活だった。その中心には亜未が居て、今年に入ってからは桐谷の存在が大きくなって……。  思い返すだけで、涙が出てきそうだった。流石に今泣いてしまっては明日見るに堪えない顔になると堪える。  頭を振ると、視線を窓から机の上へと移した。 「そういえば……亜未は何を書いてくれたんだろう?」  卒業アルバムへ手を伸ばし、自由欄のページを開く。クラスメイトからのコメントにも目を通しつつ、亜未の文を探した。 「あった。……ん?渾身の作品と言う割にはそんなに書いていないような……」  他の人に比べたら長文だが、サプライズ好きな彼女にしたら随分地味だった。ただ、文章の最後に"うちからのプレゼントは次のページにあるよ!"と書かれている。  それに従って、ページを捲った。 「…………え」  私はそれを見るなり、言葉を失う。  そこには汚い字でたった四行、 "卒業おめでとう。 俺スマホ壊れてメッセージも新しくなったから、 これを見たら直ぐに連絡くれ。 じゃないとジュース奢りだから"  とIDも添えて書かれていた。  咲登子はスマホを手に取ると、亜未へ電話を掛ける。もしもし、と眠そうな声が聞こえた。 「……なに、勝手なことしてんの」 [ごめん、勝手だとは分かってた。でもうちはさ、後悔して欲しくないんだ。まだ咲登子は桐谷君のこと忘れられて無いでしょ?] 「……そう、だけど。でも、私は……明後日には東京を出るんだよ」 [だからこそ。自分の想いを伝えるべきだよ。大学に行っても、桐谷君の面影にビクビクするつもり?]  その言葉に、頬を張られたような気持ちになる。 [咲登子はさ、もう少し桐谷君と向き合うべき。絶対誤解していることもあると思うよ] 「……あ、亜未になにが分かるの、」 [分かるよ。だって、桐谷君のために頑張っていた可愛い咲登子を、ずっと近くで見ていたのはうちだよ] 「…………亜未」 [だからさ、連絡してみて。……一年の部屋に乗り込むのめちゃくちゃ緊張したんだからねっ!じゃあまた明日!]  亜未は一方的に言うと、ぷつりと通話を切った。  咲登子はスマホを下ろすと、再び卒業アルバムへ視線を戻す。  その隅に、《女は度胸!》と書かれていた。まるでこうなることを読んでいたかのようなそれに、思わず笑う。
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