さよなら、浅き春

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 背まで伸び、ふわりと巻かれた黒髪が、温かさを含んだ三月の風に吹かれてそよぐ。咲登子は卒業証書の入った筒を空へと掲げた。  式は既に終わり、両親や友人、恩師との記念撮影は終えている。  亜未とも涙の別れを済ませ、後は桐谷との約束の時間を待つだけだ。在校生は卒業式には出ず、午前のみ授業なのである。  サア、と大きく風が吹き、人の声が聞こえ始めた。授業が終わったのだろう、帰宅する在校生で廊下は溢れかえる。  噴水の前で待つ咲登子の元へ、一人の男子学生が現れた。 「君は…………」 「お久しぶりっす。卒業おめでとうございます」  一年前、部活案内の紙を見せてくれた子だと思い出す。  彼は含み笑いをすると、 「先輩、コレどーぞ」  と一枚の紙切れを渡してきた。  それを開くと、地図のようなものが書かれている。だがあまりにも雑すぎて、よく分からなかった。 「……ええと…………、これは?」 「地図す。これが職員の駐車場、そんでこれが(やぶ)っぽいヤツ!とにかく行きゃあ分かるって、クラスの女が言ってましたよ」 「……うーん、分かった。ありがとう」  さすがに三年も居れば、あの噂くらいは聞いたことがある。職員用駐車場の裏手にある藪の向こうに、古めかしい祠があるのだ。しかしそれは一体何に効果があるのかは忘れた。 「ほら、ダッシュダッシュ!時間は有限っすよ!」 「う、うん」  急かされた咲登子は、そのスカートを翻して祠へと向かう。今後の展開を考えると、気持ちは重かったが、久々に会えると思えば自然と鼓動は高鳴る。ローファーへ履き替え、つんのめりながらも先を急いだ。 「……あの先輩、あんなに可愛かったっけ。眼鏡も止めたんだなぁ……」
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