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用事を終え、歩いてきた廊下を戻る。下校時間を過ぎたそこはほんのりと薄暗く、寂しい気持ちにさせられた。
ふと、背後に人の気配を感じて振り返る。
「須藤さん。もう帰るの?」
そこには非常勤講師である横田が立っていた。咲登子の肩に触れようとしたのか、行き場のない手が宙を彷徨っている。
高身長に優しげな顔立ちの彼は女子生徒の中で人気だった。しかし常に笑みを浮かべながらも、目の奥が笑っていないことを咲登子は知っている。故にあまり関わり合いになりたくはないのだが、やたらと絡んでくるのだ。大方、自分に靡かない者へ興味があるのだろう。
「……いえ、図書館へ寄ってから帰ります。失礼します」
咲登子は業務的な愛想笑いを浮かべてから、軽く会釈をした。そしてまた歩みを進める。
普通の教師ならば、ここで「頑張るんだぞ」や「気を付けて帰るように」と終わらせるはずだ。だが彼は違う。
「それは感心だなぁ。勉強かい?僕で良ければ教えようか」
横田はめげずに歩幅を合わせてきた。今日は一人だからか、いつもに増してしつこい。咲登子はぴたりと足を止めると、軽く睨み付けた。
とは言っても、横田よりも咲登子の方が身長が低い。必然的に上目遣いに見えてしまう。
「先生に贔屓されていると思われたくないので、結構です。失礼します」
何の感情も込めずに言い放つと、さっさと階段を駆け上がった。
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