春風と共に君は

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 咲登子は家へ帰り、食事や風呂を済ませると濡れ髪にタオルを巻きながら、自室のベッドへ寝転がる。  すると、スマホが小さく振動した。起き上がることが億劫と言わんばかりに、手探りにそれを探す。目の前に(かざ)すと、画面には亜未からのメッセージが広がった。  [朗報!1年に桐谷琥太郎君って子いるみたい!]  その文字に途端に胸はザワついた。わざわざ調べたのかと思いつつ、ゴロンと寝返りを打ち、うつ伏せになる。  [さすが情報が早いね。実は、私も偶然廊下で会ったんだ]  そのように返信すれば、直ぐに既読が付いた。   [え!もう会ったの?どうだった??]  [別に……ただ挨拶したくらいだよ]  [都内の高校なんて山ほどあるのに、わざわざ同じ高校とか……これはもう運命の神様の仕業だよ!]  ポンポンとハートを持った子犬のスタンプが次々に送られてくる。  興奮する亜未の姿がスマホ越しに想像出来てしまい、咲登子は苦笑いを浮かべた。  その反面で"運命の神様"の文字にチクリと胸の奥が痛む。もしもそのような神がいるのならば、何と残酷なのだろうか。  恋心を消すために要した月日は三年だ。それを後押しするかのように一度も出会うことも無かった。他の人を好きになることも出来なかった。その上、東京を離れると決めた途端に再び引き合わせるとは、どういう罰なのか。  [偶然だって。私みたいに家から近いって理由だと思う。自転車(チャリ)で通える距離だしね]  [えー、そうかなぁ……]  [それに、どうせ私達もう受験生だし?直ぐに自由登校になるんだからさ。関わることも無いって]  それはまるで自分へ言い聞かせているようで、虚しさがじわじわと広がった。  [そっかぁ……。まあ、咲登子がそう言うなら……。でも、それでも好き!ってなったら教えてよね]  [はいはい。……でも調べてくれてありがと。持つべきは親友だね]  ポンとお気に入りのキャラクターのスタンプを送ると、スマホを置いて身体を起こす。水分を吸ったタオルを剥がし、ミニテーブルの上に置いたドライヤーを手に取った。
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