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陰へ手を差し伸べて
あれから一週間が経ったが、咲登子と桐谷が出会うことは無かった。それもその筈で、咲登子は本格的に図書館へ通うようになり、日の明るいうちに一年の廊下の前を通ることは殆ど無いからである。
やがて空は暗くなり始め、西の山へ落ちた夕陽の代わりに、優しく月が大地を照らし始めた。気付けば、校庭にいた大勢の生徒の数も疎らになっている。
咲登子は椅子から立ち上がり、司書へ礼を言って廊下へ出た。非常灯だけが点灯したそこは気味が悪い。
自然と足早になりつつ階段を降りると、昇降口へ向かった。上履きからローファーへと履き替えようとすると、突然人影が背後から現れる。
「須藤さん、こんな時間まで残っていたの?」
はっとして思わず立ちすくんだ。しかし振り向かずとも、それが横田だと分かった瞬間、心が動けと言う。それに従おうとさっさと上履きを下駄箱へ仕舞った。
「……は、はい。もう帰ります」
「暗いから、僕が送ってあげるよ。ええと……確か須藤さんの家は隣町だったかな?バスで来ていたよね?」
その言葉に、咲登子は初めて振り向く。暗がりではあったが、不気味なほどに爽やかに笑む横田を見て、背筋に悪寒が走った。
──クラスの担当でも何でも無いのに、どうして私の家を知っているの?
「結構です」
「遠慮しないで。須藤さんは可愛いから、不審者に襲われないか心配なんだ」
ね、と肩に手が置かれる。触れられたそこから、ぞわりと嫌な感覚が広がった。
「──大丈夫ですって!」
弾かれるように校舎を出た。だが、職員用の駐車場入口前に利用しているバスがあることに気付く。
──どうしよう。少し歩いて次のバス停を目指す?
だが、周囲は街灯はあるものの、人通りも少なかった。バスが来るまで校舎に残る選択も今は無い。その時、視界に部活帰りの生徒が入り、ある事を思い付いた。
今まで横田には一人の時ばかり話し掛けられていた。つまり、誰かと居ればその心配は無いのかもしれない。
この際仲良くなくとも構わないと、体育館や校庭がある方面へ向かった。
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