私の特別

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「今日は、わざわざ買い物に付き合ってくれて、本当にありがとね。おかげて良い物が買えたよ。」 「別にいいわよ、私もコーヒーまで奢って貰っちゃったし。こちらこそありがと。」 「全然いいよ。これで彼女も喜ぶだろうし。やっぱり、咲良にいて貰って良かったわ。」 …。 あぁ もう、魔女のかけた魔法はおしまい。 12時の鐘が鳴ったら 王子様の前にいるのは シンデレラのふりをした 絵本の隅にいる背景の住民。 そばには描いてもらえても カボチャの馬車すら貰えない。 勝手にナレーションをしていた 1日限りの擬似デートは もうここでおしまい。 「彼女さん、喜んでくれるといいね。」 「これなら絶対喜ぶでしょ。あぁ、早く来週にならないかなぁ。」 「ちゃんと、ケーキの準備とかしてるの?せっかくの誕生日なんだし、プレゼントだけじゃダメだよ。」 「勿論。今日行ったカフェで、ケーキのプレートに書いてもらう文字までお願いしたし。歌だけじゃなくて、クラッカーとかも用意してくれるんだって。」 「あんまり浮かれすぎて、サプライズがバレないようにね。」 「ホント、それが一番心配。俺、すぐ顔に出ちゃうからさ。来週逢う時もずっとそわそわしちゃうかも。」 「当日、馬のお面でも被っていけば?」 「いや、マジで必要かも。」 「だから、何でマジメに答えてるのよ。」 「そっか。ごめん、全然頭回ってないわ。とりあえず、今日の下見では行かなかったけど、夜は眺めの良い展望台の見えるレストランでディナーも食べて。忘れられない誕生日にするんだ。」 「ここまで来たら、私にもディナー食べさせてよ。」 「さすがに、それは俺の財布が厳しかったわ。1人2万はマジ高すぎ。まあ、彼女のためなら仕方ないけどさ。」 「彼女さん、本当に大好きだね。」 「勿論。俺の1番の彼女だよ。」 「…そっか。」 私にとって 特別だったはずの時間が 彼にとって 何でもない1日で。 そんな現実に わかっていた現実に引き戻されたら …わかっていたのに ………わかっていたのに 「…ら?咲良?大丈夫、体調悪い?」 「ううん。歩きすぎて疲れちゃっただけ。大丈夫よ。」 瞼に浮かんだ悔しさを振り払い 彼にとびきりの笑顔を向ける。 「今日はありがとう。」 沈みゆく夕日に負けないくらい 最後まで 私らしく。 「おう。こっちこそありがとう。」 彼の笑顔が私に差し込む。 わかってる。 私は影だって。 「じゃあ、行くね。」 「帰り、気をつけてな。」 手を振る彼。 ポケットに片手を突っ込む彼。 半日歩き回って、セットした髪が崩れかけた彼。 私の 私の、大好きな彼。 「…さよなら。」 夕風に乗せた言葉が 彼に届いたかはわからない。 背中越しに感じる彼は 離れていくたびに冷たくなっていく。 一歩ずつ滲んでいく風景に 彼との思い出が鮮明に浮かびあがる。 振り返りたい。 でも 振り返らない。 涙と共に 私の迷いも拭い去る。 彼のためではなく 私のために。 これがいつかの私にとって 特別な1日になるように。
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