11人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの〜、咲良さん。」
カフェに向かう道中、彼が私の背中に声をかける。
「??どうかした?」
「今日、着てらっしゃるワンピース。花柄でとてもよくお似合いですね。」
「ありがと。そんなこと言っても、あなたの奢りは変わらないわよ。」
「………チッ。」
「今ので、さらに食後のジェラート追加ね。」
「聞こえてるのかよ!くそ、俺は一体どこで選択を間違えたんだ。」
「そりゃ、スマホを忘れて遅刻した時からでしょ。あと、そのピンク色したズボンのセンス。」
「スマホは…って、別にピンクだろうが何だろうが、俺がどんなズボン履いてたっていいだろ。」
「でもあなた、足短いしな〜。」
「それ、色と関係なくない!あと短くないから!」
都会の喧騒に
他愛ない会話が溶け込んでいく。
1人なら億劫な人口密度が
2人の距離を近づける格好の言い訳になる。
雑多な空間に出来た
彼の言葉しか聞こえなくなるノイズキャンセリング機能。
空騒ぎの中、彼の声だけを綺麗に聞き分ける。
それほどまでに、私は浮かれていた。
「あの〜咲良さ〜ん。聞こえてますか〜?」
「ジェラートは、バニラとストロベリーと抹茶の3種類を食べさせてくれるって話?」
「この人、全然話を聞いてねえ!とりあえず、遅刻したのは事実だし、ご飯は奢るから。それで許して、ね?」
「検討を加速します。」
「いや、テレビでよく聞くやつ!」
「そんなことより、着いたわよ。」
「あっ…。」
私たちが足を止めたのは、こじんまりとしながらも観葉植物の立ち並ぶ、木の匂いのするレトロ風カフェだった。
最初のコメントを投稿しよう!