私の特別

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「あの〜、咲良さん。」 カフェに向かう道中、彼が私の背中に声をかける。 「??どうかした?」 「今日、着てらっしゃるワンピース。花柄でとてもよくお似合いですね。」 「ありがと。そんなこと言っても、あなたの奢りは変わらないわよ。」 「………チッ。」 「今ので、さらに食後のジェラート追加ね。」 「聞こえてるのかよ!くそ、俺は一体どこで選択を間違えたんだ。」 「そりゃ、スマホを忘れて遅刻した時からでしょ。あと、そのピンク色したズボンのセンス。」 「スマホは…って、別にピンクだろうが何だろうが、俺がどんなズボン履いてたっていいだろ。」 「でもあなた、足短いしな〜。」 「それ、色と関係なくない!あと短くないから!」 都会の喧騒に 他愛ない会話が溶け込んでいく。 1人なら億劫な人口密度が 2人の距離を近づける格好の言い訳になる。 雑多な空間に出来た 彼の言葉しか聞こえなくなるノイズキャンセリング機能。 空騒ぎの中、彼の声だけを綺麗に聞き分ける。 それほどまでに、私は浮かれていた。 「あの〜咲良さ〜ん。聞こえてますか〜?」 「ジェラートは、バニラとストロベリーと抹茶の3種類を食べさせてくれるって話?」 「この人、全然話を聞いてねえ!とりあえず、遅刻したのは事実だし、ご飯は奢るから。それで許して、ね?」 「検討を加速します。」 「いや、テレビでよく聞くやつ!」 「そんなことより、着いたわよ。」 「あっ…。」 私たちが足を止めたのは、こじんまりとしながらも観葉植物の立ち並ぶ、木の匂いのするレトロ風カフェだった。
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