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「写真よりおしゃれだね。」
席に着いた彼が呟く。
「調べたら、ここの昭和プレートってのが人気なんだって。」
「じゃあ、それを2つ頼もうか。あ、店員さん!この…」
女性店員さんに、恥ずかしがることもなくスマートに注文する彼。
その愛想笑いでさえ、私の感情は波を打つ。
「あれ、どうしたの?どっか具合でも悪い?」
注文を終えた彼の、憂い顔付き連続パンチ。
ホント、ずるい。
「別に〜。ただ、店員さんには優しいな〜って。今の子、可愛かったもんね〜?」
「別にそんなことないよ。さっきも言ったけど、咲良の今日の服可愛いし。髪型もカールして、凄く似合ってると思うよ。」
「まあ、着てる人が釣り合ってないんだけどねー。」
「そんなことないよ。咲良は可愛いよ。」
真顔で言う彼。
1発、レッドカード。
「そういえば、この後買い物するんだっけ?」
「うん。やっと2つまで絞ったんだけど…やっぱり、最後は実物を見て決めようかなって。」
「財布を買うんだよね?」
「そそ。この間見たらボロボロで、この際新しく買い替えようかなって。」
「来週、誕生日だもんね。」
「そうなの!だから、一緒にどっちがいいか決めて欲しいんだよ。」
「私が使うわけじゃないのに、口出しちゃっていいの?」
「俺、優柔不断だからさ。むしろ、咲良にいてもらって、色々ビシッと後押ししてもらった方がいいんだよね。」
「そうやって言って、後で文句言わないでよー。」
「言わないよ。俺、咲良のセンスは信用してるから。」
「センスしか信用してないってことね。はぁ〜〜〜。」
「あっ!センスもだよセンスも!!」
昔から変わらない。
くだらないのに
たいして内容もないのに
いつまでも続けたくなるような
よく晴れた春の日のような居心地の良さ。
彼の正直すぎる反応を
忙しいくらいに変わる表情を
近くで見られる幸せ。
つい、彼の前だけは
意地悪なことを言ってしまう。
まるで、小学校の男子児童みたいに
好きな子にはちょっかいをかけちゃうような
そんな可愛げだけは忘れずに。
私の視界から
彼の笑顔が消えないように。
彼が私を
嫌いにはならないように。
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