25人が本棚に入れています
本棚に追加
1
去年の十一月、夫が五十三歳で鬼籍に入った。
まさか自分が三十八歳で未亡人になるとは思わなかった。
簡潔に私の身の上を話そう。
私は十七年前のある日、妻子ある夫と駆け落ちするため、「探さないでくれ」という書き置きだけを残し家を飛び出した。夫は元々糖尿病の気があり、駆け落ちしてすぐほぼ失明し、視覚障害者となり、のちに人工透析へと至る。
私は時間に融通のきくアルバイトをしながら、体重百キロを越える夫の面倒をずっとみてきた。そしてこの十七年間、実家の協力もなく、底辺の生活でありながらもなんとか生きてきた。
夫の訃報を各方面へ伝えたおり、私の母は言った。
「そこにいる意味ないやろ?」
だから帰って来い、と。確かにそうだ、と、私は正月に十七年ぶりに帰郷した。結構な歳月が流れていても、家族は家族だった。血の繋がりの強さ・濃さを肌で体感してきた。
そして私は、少しずつ引っ越しの準備を始めることにした。
「車、もう要らないな……」
元々夫の送迎のために免許を取り、買った車だった。予定していた車検も取り止めにして、そのお金を引っ越し資金に回すことにする。
車に乗れるのもあと数日。自家用車が無いと不便と、私は体に鞭打って、何度も重い物を運んでは売りに行っていた。
夫が亡くなり、引っ越しが決まり、休日の方がやる事が多く、ゆっくり体を休めれるような状況ではなかった。「亡くなってからの方が大変」と知り合いは皆言うけれど、それは事実だ。しなければいけないことが膨大で、それは一朝一夕で片付くものではない。
休んでいる暇など私にはもうないのだ。
最初のコメントを投稿しよう!