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水槽の魚
ああ、人間はいいなあ。
華やかに着飾って、色んなところを自由に行き来できて、毎日楽しそうにお喋りして、感情豊かに笑っている。狭くて決して綺麗とはいえない四角い箱のなかに閉じ込められている僕らとは大違いだ。海のなかだってさ、快適とは言えないんだよ。だって天敵は沢山いるしゴミや油や排水は増えるばかりでなくなることはない。
ああ、人間はいいなあ。
生きたまま焼かれたり、生きたまま茹でられたり、生きたまま串刺しにされたり、生きたまま皮を剥がれたり、生きたまま食べられたり、生きたまま捌かれて飾り付けられることもないでしょう?
僕らはね、殺される順番を待っている。いつ呼ばれるだろう。どんな方法で調理されるだろう。誰に食べられちゃうんだろうって。悠々と泳ぐふりをしながら怯えて待っている。今日もまた仲間が一匹減って、補充されて、また減ってと繰り返される無慈悲な選別。
ああ、人間はいいなあ。
もしも生まれ変われるのなら。次の世では僕は人間になりたい。好きな服を選んで、女の子だったら爪や唇に色を塗っちゃったりなんかして。髪の毛だって素敵に染めれちゃうし、自分の個性を簡単に表現できる。うん、やっぱり人間がいい。言葉を喋って、皮肉だけれど美味しいものを沢山食べて、それから、それから――。
「ありがとう御座います!鯛の活き造り注文入りましたー!」
ああ、遂に僕も呼ばれてしまった。
しかも一番嫌な方法で調理されるみたいだ。でも仕方がない。僕らは常に受け身で自分の死に方なんて選べない。短い命だったけど、せめて本当に食べたいと思ってくれた人の元へ行けますように。
見栄や映えの為に注文するだけして碌に食べて貰えなかった仲間を知っているよ。気持ち悪いだとか、不味いだとかって言われながら食べられた仲間もいる。殆ど手をつけられず廃棄された仲間も。そんな仲間たちの想いも全部持って、やっぱり僕は人間になりたい。
そうして、人間になれたら『《人間を殺してやるんだ》』
僕の最期の姿と同じようにしてあげるから待っていてね。
*
世間を震撼させる猟奇殺人事件。その犯人の一部はもしかするといつかの皿の上の〝彼、彼女ら〟なのかもしれない。――なんてね。
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