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ボクが生まれた日の2日後は、ボクの自殺記念日。
梅雨空は明けるかな?
あの場所にはきっと誰も居ない。
...誰も...居ない...。
・・・・・・
「なんで辞めるんだよ!」
ゴムボールとプラスチックのバットを使って、休み時間に校庭で野球をしていた頃からのライバルだった。
ボクは右利き。
アイツは左利き。
ボールが硬式になって、バットが金属になってからも、お互いをライバルとして意識していた。
ボクもアイツも、ピッチャーをしたかった。
入部した当初から監督にアピールしてたけれど、ピッチャーになれたのはアイツの方だった。
ボクはショート。
試合でデビューしたのも、アイツの方が早かった。
ボクは努力した。
与えられたポジションで、最大の結果を出すために。
先輩からのえげつないイジメにも逆らわずに耐えた。
身体が弱くて怪我しがちだったけど、毎日トレーニングは欠かさずやった。
中学1年生の2学期になってようやく、短距離走でアイツより速く走れるようになった。
先輩のイジメのせいで、ボクらの学年の野球部は人数が半分以下になっていたけれど、そのおかげでボクはピッチャーとしての出番も与えられるようになった。
ようやく肩を並べて競える、そう思った矢先に、あいつは体育館でバレーボールを遊びでやって、転んで骨折しやがった。
復帰したら右と左の投手として、背番号1を賭けてマウンドを競うんだと、ボクは思っていた。
だけど...アイツは帰って来なかった。
骨折の原因になった、バレーボール部に転部するんだと言う。
ボクは...誰と競えばいいんだ?
誰の背中を追えばいいんだ?
・・・・・・
祖父ちゃんは、孫のボクをとても可愛がってくれた。
冬の寒い日に、喘息の発作を起こした時、真夜中なのに車を飛ばして35km離れた大きな病院まで連れて行ってくれた。
カブトムシの捕り方を教えてくれたのも祖父ちゃんだ。
ボクを野球の道に導いてくれたのも祖父ちゃんだった。
学校でイジメられ、行きたくなくて悩んでいたボクを、救ってくれたのは両親じゃなかった。
「おまえが悪い事してないんだったら、胸張って堂々と闘え。悪い奴に負けんな。おまえは負けん!なんとしてでも勝て!」
人を殴るのは悪い事です。
殴られても殴り返したらやっぱり悪い事だと思っていました。
だって痛いでしょ?
でもね、殴り返されなければわからない悪い奴も居るって、そいつと喧嘩して勝った時に知ったんだ。
ぶん殴って鼻血を出させて、倒れて泣いてるそいつを見て、それ以上はもう必要無い事も理解できたよ。
その先に友情があるのも確かめられた。
祖父ちゃんはスポーツが好きだった。
ボクが部活で野球の練習をしているのをよく見に来てくれていた。
試合の時なんか、両親が来れなくても祖父ちゃんだけは必ず来てくれた。
ボクは、祖父ちゃんに見守られていたから、強く生きられていたんだ。
「順番だよ。ユウちゃん、順番なんだ。」
嫌だ、祖父ちゃん、もっとボクを見守っていてくれよ!
ボクはまだ、甲子園に行けてないよ!
プロになって、億を稼げる一流プレイヤーになるまで見届けてよ!
ウィルスなんかに負けんなよ!
ウィルスは悪い奴だろ!
そんな奴に負けるような弱い祖父ちゃんじゃないはずだろ!!
嫌だよ嫌だ、ボクは大切な人が死ぬのを見たくなんかないんだ...。
祖父ちゃんが居なくなったら、誰がボクが頑張るのを褒めてくれるんだい?
・・・・・・
ボクは勉強なら誰にも負けないと思っていた。
でもそれは間違いだった。
それを思い知らされた時、ボクはもう君の事が好きになっていた。
なんでそんなに速く走れるんだい?
なんでそんなに完璧に問題が解けるんだい?
なんでそんなに笑顔が素敵なんだい?
聞きたい事はいっぱいあった。
話したくて毎日しょうがなかった。
でも、ダメなんだ...。
全然言葉が出て来なくなっちゃう。
なんでだろう、意味わかんない。
好きで好きでしょうがなくて、いっぱい色んな事したいのに。
いつか必ず、自信が持てたら、ボクは正々堂々と君に告白する。
そう決意していたけれど、それより先に、挫けてしまったんだ。
君にはもう好きな人が他に居るって知ってしまったから。
態度でなんとなく察したし、友達からも聞いてしまったんだ。
それに、君にしては珍しくミスをしたよね。
日記に自分で書いちゃったんだもんね。
認めたくなかったけれど、見てしまったからには信じざるをえなかったよ。
ごめんね、ボクはどうしていいかわからなかったんだ。
冷たくしたし、悪い事もいっぱいしちゃった。
本当は好きなのに、全部逆の事ばかり...。
ボクなんか死ねばいいよね。
君の事を好きな気持ちだけが、ボクの生きる希望だったんだ。
大人になってもつまんないってわかりきってるじゃない。
身の周りの大人をご覧よ、何のために生きてるか答えられないクズばかりじゃないか。
そんなつまんない世の中だって、君とだったら生きていけると思ってました。
野球ができなくなったって、君となら新しい道を選べると思ってました。
祖父ちゃんが居なくたって、君とならボクは強くなれると思ってました。
「ぼ、ボクは...さい、さい、さい、最初に、同じクラスになったと、とっ、時から、き、君の事が、ずっと、好き、でした。」
死ぬ気になったら、なんとか言えました。
OKだったら、来てください。
野球部のグラウンドが見える、あのベンチに。
・・・・・・
大した額じゃないけれど、貯金でサバイバルナイフを買いました。
やっぱり心臓を一突きだよなあ。
いやでも骨があるからな、手首切ればいいよね。
頸動脈の方が派手でいいかな。
......日が、暮れて、ボクは、1人。
来ないよね。
そうだよね。
だからボクは死ななきゃいけない。
ボクが死んだら、君をずっと見守るよ。
君はボクの姿を見たら、生きてても死んでても怯えてしまうだろう?
だから、幽霊になれるんだったら、見えない姿でそっと見守るよ。
幽霊でも物には触れられるのかな?
君が事故に遭いそうだったら、ボクが盾になりたいな。
悪い奴が君に近付くなら、ボクがやっつけてやるよ。
ボクとじゃなくてもいい、君が好きな人と幸せになってほしい。
すごく辛いけど、君が笑顔で過ごせる人生を、ボクは本当に望んでる。
だから......
ほら、心臓を一突きだ!
手首も切ってしまえよ!
頸動脈でもいいんだぞ!
なんでだ!?
なんでやれないんだ!?
わかんねぇよ、なんで死ねないんだよォオオオオオオオオ!!!!
・・・・・・
誕生日の2日後に、自殺記念日が来る。
ボクが殺せなかったボクの記念日。
ボクが殺したボクの記念日。
あのベンチには誰も居ない。
そのベンチにボクが座る。
梅雨はもうすぐ明けるのかな?
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