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量産型の毎日が、幸せだった。そう気づかされた。もう味わうことはできないのかもしれない。
わたしの一日は、あの日から、毎日が特別なものへと変貌してしまった。
明かりのない天井の下、わたしは微睡んだ。冷たい床でも天井があるだけマシだった。
突如、銃撃と爆撃が鼓膜を震わせる。天井が揺れ、コンクリートの粒が雨のように降ってきた。眠気が一瞬にして吹き飛ぶ。
人々の悲鳴が聞こえる。
だいじょうぶ。だいじょうぶだ。わたしはわたし自身に言い聞かせる。腋と背中が冷や汗で侵されていく。早鐘を打つ心臓。呼吸がうまくでき、ない。苦しい。逃げるか、隠れるか。運命は神さまだけが知っている。助けなんてこない。
激しい地響きとともに視界が闇に包まれた。とっさに体を丸めたのは、条件反射だったのだろう。
瓦礫と化したビルから、わたしはなんとか這いでる。全身生傷だらけになりながら。
息も絶え絶えにどうにか腰かけたのは、ビルの支柱だったであろうものがぽっきりと折れたところ。
空は夜に覆われている。月が照らす砂塵と硝煙が、風に流されていく。数日前まであった、見慣れた街並みは存在しない。
わたしは胸に手をあてがう。心臓が脈打つのを感じる。生きている。生きているんだ。今この瞬間に命があることに感謝する。特別な一日が終わる。そして、特別な一日がまたはじまるのだ。
ただ、生き永らえるためだけの一日が。
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