三回まわってないても無駄

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 自分の中に黒いものが芽生えている。 「違う。変なのは礼の方だわ。あんなものを買うなんて、馬鹿よ」  大金で手に入れたテクノロジーのたまごならなら愛せるの?   信用できるの?  たしかに「スピリットエッグ」は魅力的だ。  未知なるものはいつだって好奇心を刺激する。  わくわくさせる。 「きっと、素敵な不思議なものが誕生するんでしょうね」  心から優しい気持ちでそう言えたらいいのに、言えなかった。  おもちゃの卵に嫉妬している。  銀色のエレベータはきれいに磨かれ明日香の姿を映す。  艶やかな栗色の髪はさらさらと流れる。  ウェストの細さを強調するようなデザインのワイン色のスカートは、動くたびに裾がふわりと広がって女性らしさを強調したはずだ。  甘さを押さえるためにあえてブラウスはシンプルなカットのものを選んだ。  だけどきっと礼は今日、明日香がどんな服を着ていたかなんて、覚えてもいないだろう。
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