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一足先にYouTuberのイベントが開始時刻となった。
またLINEが通知の鳴き声をあげる。
おかしいな。イベント中のはずなのに。
さすがに気になって既読を恐れずにLINEを開く。
そこには写真が貼り付けてあった。
あ! これメンバーじゃん!
別段好きじゃないYouTuberでも、日常的に見ている人の生写真とあっては少し興奮もする。
そこに次々とメッセージがつく。
『ヒカ(※私)体調大丈夫? るながハガサレ覚悟でヒカのために接写してきたよ! これみて元気だしてね』
『ヒカ熱上がったらごめんだけど頑張ってとったから写真見てー』
『生で見ると背高いしかっこいいぞ 次はヒカも絶対行こ』
……温かいメッセージだった。私への。私なんかへの。
イベント中の時間だ、目の前に憧れの人達がいる状態なのだ。それなのに私のことを気にかけてくれている。私にそのつもりがなくても、皆にとっては私はしっかり『友達』だったんだ。
最低だ、私って。
仮病して、そうでなくても偽って。
私じゃなくてもいいんだって勝手にへちゃむくれ。
……実はすごくありがたいところにいたのかも知れない。
気付けばお目当ての新曲発表のLIVE配信の時間が迫っていた。
妹がリビングの方でバタバタとセッティングし始めたらしい。スポーツの中継を見ていたはずのパパが、ぶつくさ言いながらリビングから遠ざかっていく音が聞いてとれる。
私も行かなくちゃ。そのために嘘までついたんだし。
……でもその前に、みんなに言わなくちゃ。
『みんなありがとう 自慢話いっぱいきかせて』
私は心にもない……こともない、そんな返信をした。
そして、そのままベッドに横になり、泣いた。
もうめっちゃ泣いた。理由はお察し。
LIVE配信の時間が来ていた。妹が何度も呼んでいる。
でも私はベッドから動くことが出来なかった。
結局私は、生で何も見なかったのだ。
……ここ!!!
この場面の私に言いたいんだ。
仮病を使ってLIVE配信を見ようとした私に「それでいいんだ!」って。
タイムマシンを手に入れたら腕まくりして乗り込んで、この瞬間に颯爽と現れて、こいつに言ってやるんだ。
「なにしてんだ!」
そんで引き摺り起こして、無理やりLIVE配信を見せに行く。
なんのために、お前は今ここにいるんだ! って。
好きなことをしようとしただけで間違ってない! って。
罪悪感を覚えたのは正しいと思う。
友情に気付いたのも尊いと思う。
でもそれはそれ、これはこれ。
この割り切りがこの時の私には出来ていなかったんだ。
確かに嘘をついたかも知れない、でも人を傷つけて痛めつけるような真似をした訳じゃないんだ。自分の心の平穏のためだけにしたことで、そういうことを『自分で許してあげる』ことが人生には肝要なんだ。
学生の私には響かないかも知れないけど、そう言ってあげたい。
「自分」を優先したんでしょ、それでいいんだって。
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