第二章 自己紹介

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「ホテルのオーナーからの要請で、蕎麦打ち体験の講師を代行で務めたのは一回きりだったから、よく覚えてる。スキー場ホテルを利用する学校は多かったけどね。でも、悪いけど、芳野くんの記憶は全く無いんだ」  信州、椿高原が地元の伊万里。かつて、親戚が経営するスキー場で宿泊客相手の陶芸教室を営んでいた。趣味の蕎麦打ちの腕を買われて、蕎麦打ち体験のピンチヒッターを頼まれたこともある。八年前、海外の土で焼き物を作ってみたいという夢を叶えるために渡欧するまでのことだ。 「あ……そう、ですか。芳野くんは記憶に無い、ですか……あははっ、ですよねー」  「君は俺のことを覚えてくれてたのに申し訳ない」 「気にしないでください。大勢の中の一人だった俺のことなんて覚えてなくて当然っすよ。あー、だけど……ここでまた会えて、これって運命なんじゃね? なんて、さっき一瞬でも浮かれた自分が恥ずかしいなぁ」 「え?」 「十年間、一度も瀬戸さんのことを忘れてなかった俺への神様からのご褒美かなって舞い上がっちゃったけど、そんなわけないよなぁ。あははっ」 「……え?」
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