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異国からやってきた青年が、いったい何に対して頭を抱えているのか、皆目わからないが、たった一つ明らかなことがある。それは——。
「危ないっ!」
日本人青年の身体がいきなり傾き、重力に逆らうことなく地面に倒れ込むのが、周囲にいた者にはっきりとわかった。
「おいっ、大丈夫かっ?」
「夢だったのに……なのに、急に目が……すげぇ目が回ってるよぅ……すげぇ、眠たい……全然、寝てないから、かな?」
「え、そっち? 重病とかじゃなくて、ただの寝不足? マジ?」
「俺のアテネ……俺の夢……ゆ、めぇ、ぇ」
「おい、待てっ。わけわからんまま、夢に一直線するんじゃねぇ!」
夕暮れのアテネ。3400年の歴史を持つ古代都市国家の片隅で、街の外観にそぐわないトークがその場を賑わした。
突然、倒れて意識を失った旅行者と、その青年に手を伸ばした男性による会話。それは、〝日本語のやり取り〟だった。
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