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「ギリシャコーヒーだよ。」
「ありがとうございます。いただきます」
「どうぞ。ところで、名前、聞いてもいいかな?」
「あ、申し遅れました。芳野爽斗です。字は、こう書きます。二十三歳です」
財布から素早く名刺を引き抜いた爽斗が、同じスピードでそれを相手に渡す。念のために一枚だけ財布に入れといて良かった、と内心で大きな息をつきながらの動作だ。
「芳野爽斗くんか。綺麗な字面だね。俺は、瀬戸伊万里。年は、さん……」
「うええええぇーっ? 瀬戸伊万里さんっ? 瀬戸伊万里さんって、信州の椿高原スキー場で陶芸スクールやってた瀬戸伊万里さんっ? 年は、えーと、俺より十歳上だから、今、三十三歳で、蕎麦打ちもプロ級の瀬戸伊万里さんですかぁっ?」
「そ、その瀬戸伊万里、です、けど?」
身長差、約二十センチ。筋肉自慢の長身が不意に立ち上がり、テーブル越しに伊万里に顔を近づけてきた。痩せ型で猫背の三十代は突然の圧迫感に混乱し、戸惑いながらも思考をフル回転させる。
なんだ? この子、なんで俺のことを知ってる? 今日が初対面じゃない? 全く覚えが無いぞっ。
見上げた人物は伊万里には面識の無い相手だが、どこで会ったのだろう。
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