エレベーターピッチ

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「物事をプレゼンテーションする際に用いられる手法の一つとして、エレベーターピッチというものがあります。わずか1分未満という短い時間の中で、物事の要点や魅力を相手に伝え、交渉を成立させる、というやり方です。通常の人間が1分間で相手に伝える事のできる情報量は、多くて400文字程度です。私は長年の内に積み上げていった経験の中で、この技術を重点的に磨いていきました。ある時は業界最大手の社長を相手に、またある時は海外企業の役員を相手に、この手法で取引を成立させ、そうして最後は、私自身が大手上場企業の社長に就任する事が出来たのです。どうでしょうか。私は一度きりな人生の中で、ここまでの業績を積み上げる事が出来ました。だから死神さん、私の寿命をもう少しだけ伸ばす事はできないのでしょうか?」 「いや、流石に無理っすね」  老紳士の命日。天国へ昇りゆくエレベーターの中で、タバコを咥えた死神は、軽薄な様子で微笑んだ。
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