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いたずら好きのアリス
アリスがいる鏡の中には、鏡に映っている部屋がそのままある。
卵型の椅子にも座って、クッションの効く座面でポムポム弾んだり、ローテーブルの板面に映し出された金魚をイルカに変えてみたりもした。
もちろん赤毛のハンサムさんとティルミルが、他の部屋に行ってしまった後でのことだけれど、この家具でこんなことができたらいいのになと思うと、大抵のことは叶うようだ。
それはこの鏡の世界が虚構のもので、実体がないから、住人のアリスの思い通りに変えられるのだろう。
それでも、やはりリビングだけで過ごすのは退屈だ。
アリスは、他の部屋も探検したくなった。
先ほどティルミルが私を見つけようとしたときと同じように、窓へと念じてガラスの中に飛んだ後、同じようにサイドボードなどのガラスを伝ってドアに近づく。けれど、リビングから出ることはできなかった。
夜も更けてリビングのシーリングライトや間接照明が落ちたときには、アリスは瞬時に鏡の中に戻されてしまい、真っ暗な闇に押しつぶされそうな不安を抱きながら、ソファーの上で丸くなって眠った。
翌朝、夜明けの光で室内がほの明るくなり始めるころ、アリスは目覚め、外の景色を見るために窓に移ろうとして失敗。外が暗く、窓が鏡のようになっているときにしか、移動はできないようだ。
しかたがないので、ソファーの上に立ち、窓の外を見る。眼下にいくつものビルの屋上が見えることから、この部屋がかなり高い位置にあるのを知った。
ガチャッ
ドアの開く音に振り向けば、ティルミルが鏡に向かって滑るように進んでくる。
あれ? なんかやばくない?
その予感があたったようで、ティルミルの胴体の胸の部分が開きレンズが覗いた。
「アリスちゃん。いますか? まずは鏡から調べますので、いたら反応してください。怖くないから逃げないでくださいね」
怖いわよ。あっちへ行ってよ。明るいところじゃ鏡の中から動けないんだから。
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