いたずら好きのアリス

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 子孫が続く限り鏡を護らないといけないなんて……どうして?  アリスが聞いてとばかりにティルミルを突っつくと、ティルミルが一瞬変な顔で腕を見下ろしてから、アリスの要望通りの質問をした、 「う~ん、それがね、俺は祖母が元気になるまで鏡を一時的に預かるだけだから、理由を教えてもらっていないんだ。祖母の次に鏡を護る人間は決まっているらしい。もし、なんらかの理由で俺に鏡が回ってきたら、俺は鏡同盟の仲間になって、秘密保持の誓約書にサインをさせられるわけだ。ああ、いけない。もうこんな時間だ。病院に行かなければ」 「ご主人様、まだ六時です。朝食をご用意しますので少々お待ちを」 「いや、今日はいい。早く行って事務処理を片付けて、Sleeping Beautyに会う時間を作りたいんだ」 「一世紀近く眠られている女性患者さんですね。ご主人様が秘密だと言って教えてくださいました。金髪とバイオレットの瞳を持つ美しい方だとか。今日は目覚めるといいですね」  アリスはふと肩に垂れている長い髪に触れた。ティルミルの腕から鏡の方を覗き込み、自分を映してみる。 「私も金髪でバイオレットの瞳だわ。でも一世紀って寝すぎじゃない? さっきの話から想像するとこのハンサムさんはおばあちゃん子みたいだし、女性もずっと年上が好みなのかしら? もったいないわ。あなたはとっても若くて素敵なんだもの。目覚めない人よりも、意識のある私を見てよ。ねぇ、ってば。もしも~し……聞こえないか。やっぱり身体がないとダメなのよね」  しゅんと俯いたアリスの耳に、男の声が届いた。 「そういえば、偶然とはいえアリスと名前が似ているな。彼女はアリシアというんだ」 「人名辞典をチェックしてみました。アリシアという名前は、アリスのラテン語系に由来しているそうです」 「名前の由来か……それで母親が不思議の国のアリスと鏡の国のアリスという本を所持品に入れたんだろうか。小さいころ読み聞かせたとはいえ、患者は二十歳だから、なぜ絵本を持たせたのか不思議だったんだ。あっ、いけない。急がなければ。じゃあ、ティルミル留守番を頼んだよ」
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