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「分かりました。実は、アリスちゃんの居場所を確認した途端に、顔に文字が浮かんだんです」
『何て?』
「Helloって……」
『ハハハハハハ……もし、それが本当にアリスの仕業なら、お茶目ないたずらだし、かわいいじゃないか』
「笑いごとではありません。ご主人様。本当に早くお帰りになってくださいね」
『分かった。分かった。また何か変わったことがあったら連絡をしてくれ』
笑い声を残して通信が途絶えた。
実際のティルミルの顔にある口は、への字に曲がってかなり不満気だ。アリスはティルミルをからかうのが楽しくなった。
もっと何か話したいと思ったのに、ティルミルが鏡を見ないように後ろを向き、言い訳のようにブツブツと呟くのが耳に入る。
「アリスちゃん、他の部屋で仕事をしてきますから、いたずらしないで大人しくしていてくださいね。逃げるわけじゃないですよ。アリスちゃんが怖いわけじゃありませんからね」
それにしては、ものすごいスピードで部屋を出て行くティルミルの後ろ姿を見て、アリスは一瞬呆気にとられたが、先ほど聞いた男の笑い声に負けないくらいの大きな声で笑った。
笑ったせいか気分がすっきりしたアリスは、ソファーの上に座って大きく伸びをした。
「今度ティルミルが入ってきたら、テレビか新聞を見せてって頼もう。ここがいつの時代で外がどうなっているのか知りたいもの」
静かな部屋に取り残されたアリスは、いつの間にか目を閉じ、眠りの世界に引き込まれていった。
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