プロローグ

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 首を傾げて思い出そうとしても、何組もの家族たちの日常が映画のシーンのように流れるだけで、そこに自分の姿はなく、目の前に広がる光景はいつも違う場所だ。  大抵は贅を凝らした広間だったり、アンティークの調度品が並ぶ部屋だったりするが、今回はどうも様子が違うみたいだ。  光る床は大理石だろうか。それにしては模様もなくツルンとしている。そのアイボリー色の床には横長のテーブルが置かれ、パネルディスプレイになっている天板には、熱帯魚が泳いでいる。それを挟んでこれまた見たことのないデザインの一人掛けソファーが二台と、三人掛けソファーが置かれていた。  どんなものかというと、殻を剥いたゆで卵のようにつるんとした楕円形の物体を三分の二ほどカットして、背もたれと座る部分を作った椅子だ。その部分には、黒いレザーのようなシートが貼ってあり、厚みがあることから、多分クッションは効いているのだろう。  なんだか以前見たSF映画みたいなセットだなと考えていたところに現れた男を見て、ひょっとしたら私は、本当に映画の中に入り込んでしまったのかもしれないと思った。
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