Sleeping Beauty

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Sleeping Beauty

  コンピューターに管理されたICU(集中治療室)に入ったドクター・ラルク・グローリアンは、並んでいるベッドの間を移動して、特別監察室へと向かった。  赤い髪は色を抑えた室内ではとても目立つ。赤いマントに反応する闘牛のように、二十四時間患者たちに付き添っている数体のヒューマノイドロボットがやってきて、ラルクに患者たちの状態を報告をした。  処置が必要な場合は立ち止まり、担当ロボットに的確な指示を出す。もちろん、緊急の場合や複雑な手術などはラルクが請け負うが、今日はまだ患者たちの容態は安定しているようだ。  ラルクが勤めるNever‐ending社は、通常の病院とは別に、特殊な患者を扱う施設がある。それは何かというと、遺体を冷凍保存するための施設だ。  Never‐ending社は、十九世紀の後半に、遺体を冷凍保存して医学の発達した未来に希望を託し、クローン技術などでの復活を夢見て設立された会社である。  不治の病にかかった患者が、本人や家族の意思で、全身または頭部だけを冷凍したが、当時は窒素を使って冷凍することは可能でも、解凍技術が無かったため、がんなどの治療が大幅に進歩を遂げても、遺体は凍らせたままだった。それに、いくら治療のために本人の細胞を培養することが許されているとしても、二十三世紀の今でさえ、人間の細胞から丸っと同じクローン人間を作ることは、倫理的観点からみて国際法で禁止されている。  優性遺伝子のみが生かされ、後は排除される可能性が出てくるからだ。
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