驚愕

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 ちょうどそのとき、ティルミルが飲み物のトレイを掲げて部屋に入ってきた。光の前に紅茶と菓子を置き、ラルクの前にコーヒーを置く。そのままラルクの後ろに控えるティルミルを見て、光が話すのを躊躇った。 「ティルミルはいても問題ない。俺が話してもいいと言った相手以外に秘密を話そうとすれば、プログラムが初期化するように設定してある。実は光から電話をもらってすぐに、ティルミルにヒカルの心音や声の緊張感、分泌物の出具合などをセンサーでチェックするように命じたんだ。危険が伴う話を頭から信じるわけにはいかないからね」 「ああ、要は僕を嘘発見器にかけようっていうんだな。いきなり訪ねてきた僕が、アリシアを救うために、オリビアから聞いたことを伝えに来たって言っても胡散臭いよな。僕が君の立場なら、きっと同じことをするだろう。信じてもらえるならポリグラフ検査でも何でもやってもらって構わないよ」  アリシアを救うために来たという言葉を聞いて、アリスはブルっと身震いした。何だかとても不安を感じる。今の世界には待っている人もいないのに、一世紀も眠り続けたアリシアにどんな不幸が襲い掛かろうとしているのだろう。アリスは聞くのが怖くなった。  それでもこの部屋から出ていくことは叶わない。ラルクが後ろを振り返り、ティルミルに命令するのを鏡越しに見つめた。 「ティルミル、今からヒカルが話すことは秘密だ。俺とヒカル以外に話してはいけない。いいな?」 「分かりました。でも、アリスちゃんも聞いています。もしアリスちゃんにこの秘密のことで尋ねられて私が答えたら、私は初期化されてしまうんでしょうか」 「ああ、そういえば会話ができるようになったんだったな。じゃあ、今から聞く秘密を、俺とヒカルとアリス以外に喋ったらだめだ。これでいいか?」  ティルミルがハイと答えて動作を止める。それまで部屋を見回していた光がひたとラルクを見据えて、アリスって誰だと訊ねた。 「このロボットが、僕たちの話をアリスが聞いていると言ったけれど、防犯用の記録AIか何かかい」 「いや……俺が相談したいと言ったことに関係するんだが、ややこしくなるから後で話すよ。先にオリビアから聞いた話を教えて欲しい」  了解と言って光によって語られた秘密は、とんでもないことだった。
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