プロローグ

9/9
前へ
/37ページ
次へ
「ご主人様、霊的なエネルギー反応に名前を付けた場合、姿を見せる確率を計算した方がよろしいでしょうか?」 「ハハハ……しなくていいよ。別に姿を見たいわけじゃない。ティルミルと会話するときに、何を指しているのか分かればいいと思っただけだ。そうだな、昔の本の主人公の名前でいいのがあるんだ。えっと……何だったかな。確か、アリスだったような気がする」 「二百八十年前の作品に、ルイス・キャロルが書いた『不思議の国のアリス。鏡の国のアリス』というものがあります」 「ああ。それだ! 患者が幼い頃、母親がよく読み聞かせをしたらしくて、患者が目覚めた時のために、母親がその絵本を預けていたんだよ。先日目にする機会があったんだが、内容はともかく、タイトルの『鏡の国のアリス』ならイメージがぴったりだと思わないか?」 「そうですね。性別が男ならどうしますか?」  赤毛の男の笑い声が響く。 「『あれ』よりはマシだろ? さっそく明日からアリス探しを日課に入れてくれ」  私は笑えなかった。アリスという名前を聞いた途端に、私はとてつもない悲しみに襲われたからだ。  どうしてだか、ここに居てはいけないような気がする。でも、私は目覚めたばかりで、記憶もあやふやだから、どこに行けばいいのかもわからない。  思い出さなくては……私は一体誰なのかを。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加