第二章 ノリコの憂鬱

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「……これは、うちの会社じゃ今タブーになっている話だから、あまり大きな声じゃ言えないんだけど、あれは確か、先週の水曜日の朝――」  トモヤが私のケータイの留守電に最期の連絡を入れた日だ…… 「――二日連続で遅刻して、課長に怒鳴られていた時だよ。まあ、その前の日や、前々の日から少し様子がおかしいとは思っていたんだけどさ。でもやっぱ、極めつけはその水曜日の朝だったよ。課長の怒鳴りに岩国の奴、最初は謙虚に聞いて受け答えしてたんだよ。俺から聞いたって、そこまで言うか?、っていうくらいに課長の言葉は酷かったけどさ、それでもね。まあ、だからこそ岩国って上司受けは良いし、人当たりもよかったんだろうけど。でも、あの日だけは違ってたよ。謙虚に聞いて、受け答えして、課長が『もう行ってよし』て言うと同時に、アイツは背中を向けて自分の席に帰ろうとした、と思ったら突然振り向いて、 『ふざけんじゃねえぞ、このハゲオヤジッ……!』  って怒鳴ったんだ。耳疑ったね……それから周りに向かって、 『テメエら、こんなクソみてえな仕事よくやってられんなあ! 頭おかしいんじゃねえのか!』  って怒鳴ってさ、そのまま会社を出て行ったんだよ」  スーツ姿の男の人が語り終わると、少し間を空けて、カオリが尋ねました。 「……つまり、岩国さんはキレて、それで会社を……?」 「いや、あれはキレたとか、そういうんじゃないよ。確かに、あれが切っ掛けでアイツが会社をクビになったのは事実だけどさ。でも、あの怒鳴っている時の顔、今思い出してもゾッとするね。おまえ本当に岩国か?、って尋ねたくなるくらい別人だったんだから……俺だけじゃなく、その場に居合わせた会社の人間全員がそう言ってるし。だからこそ、この話はタブーになってんだ……」
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