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彼女は突然だった。
「あの……大丈夫ですか……?」
十二月初旬の肌寒い朝だった。
その日は、『今日は会社に行く前に得意先を回らなければ』と、いつもより早い時間に起きて支度を始めた。大学在学中の頃から住んでいる木造二階建て1Kのボロアパートの一室。和室を無理矢理フローリングにした六畳一間のその部屋を出て、キッチンで煙草を1本吸い、それから靴を履いて玄関ドアを開ける。玄関ドアは、いつものように、ギギ、と何かの動物のような鳴き声を上げて開く。
そこまでは、いつも通りの朝だった。違ったのは、玄関を開けた目の前に、服も肌も薄汚れた髪の長い女が倒れていた事だ。
どう見ても、行き倒れの浮浪者にしか見えなかった。
「あの、大丈夫ですか」
もう一度、今度は強めに呼び掛ける。
だが、女は何の反応も示さなかった。
途端、俺は自分でも分かるくらい一変して顔をしかめた。
「ふざけんなよ。人ん家の前で倒れてんじゃねえよ……」
しかし、同時に嫌な不安が俺を襲った。
「まさか、死んじゃいないだろうな……」
俺は、女を人差し指で恐る恐る突ついてみる。
反応は――無い。
「オイオイ、勘弁しろよ……」
言いながら俺は頭を抱えた。
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