第二章 ノリコの憂鬱

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 トモヤの勤める会社には以前、忘れ物を取りに行く、と休日に付き合った事があるだけだったので探すのにちょっと苦労しましたが、道行く人や交番で聞いたりしながら何とか辿り付く事が出来ました。  似たようなオフィスビルが立ち並ぶ内の一軒の中に、トモヤの勤める会社の入ったビルはありました。そのビルの三階くらいには社名の入った看板が掲げてあり、カオリはそれを見付けた途端、 「あったあった、BN製薬!」  と、何だか嬉しそうな声を上げました。もちろん、そんなカオリとは対照的に、トモヤがもし本当に仕事が忙しいだけだったら、と思うと私は気が重く、うつむき加減でしたけど……  着いたのは丁度昼頃だったので、BN製薬の入っているビルには様々な人達が出入りしていました。ほとんどはスーツ姿の会社員達ばかりでしたが、そんな中には外国人も混じっていたり、あと、運送業者の人達の姿も見えました。そんな様子の中をカオリはキョロキョロと見まわしながら、 「岩国さん、見えないね……」  と言った後、 「よし、それじゃあ直接会社に乗り込んでみよう」  と、私の腕を引っ張ってビルの中に入ろうとしました。しかし、私の脚は動きませんでした。 「どうしたのよ?」  私は、うつむいたまま答えました。 「……ねえ、やっぱりやめようよ」 「ここまで来て何言ってんの!」
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