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私が少し落ち着いたところで、トモヤは部屋に上げてくれました。
トモヤのアパート。玄関を開けると、左手には小さなキッチンが見えて、反対側にはバスルームとトイレ。その奥、扉を一枚隔てた向こう側が八畳くらいの生活空間。トモヤは結構神経質なところがあるから、部屋は相変わらずサッパリとしていて、フローリングはスベスベで、部屋の窓際にはベッドがあって、そのベッドに寄りかかって見れるようにテレビが置いてあって、そのテレビの横には小さな緑色の洋服ダンス。部屋の真ん中にはクッションが二つ。二人で買いに行った二匹の子猫のキャラクターが寄りそっている赤と青のペアクッションが……ああ……全部最期に会った時のままだ……
一週間くらいで、そんな変わるはずもないのは分かっていましたが、それでも私は嬉しくてしょうがありませんでした。そんな私は、まだ部屋を見まわしつつ薄く笑みを浮かべながらクッションの上に正座します。
でも、そんな時でした。私が飛び上がって驚くぐらいの言葉をトモヤが言いました。
「今、コーヒーでもいれるよ」
「えっ……?」
そんな言葉、付き合い始めてから、ただの一度としてトモヤの口から聞いた事はありませんでした。
トモヤは私にコーヒーをいれさせる事はあっても、私がそばに居る限りは絶対に自分ではやらない人なんです。
私は慌てて立ち上がりながら言いました。
「い、いいよ! 私がいれるから……」
しかしトモヤは、
「いいっていいって、ノリコは座ってろよ」
と、凄く優しい笑顔を見せました。
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