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ノリコが不思議そうにそんな言葉を発した。俺はすぐさま耳から携帯電話を離して表のほうに向き直った。と、開けっぱなしのドアの向こうには誰もいなかった。
「なんだ、生きてたのか……」
その瞬間、俺の全身には安堵感が行き渡り、俺は気が抜けて思わずその場にへたりこんでしまった。それと同時に、携帯電話の向こう側から大きな声が聞こえた。
「もしもし? どうしました?」
俺は慌てて、
「すみません、間違えました!」
と、答えてすぐに電話を切った。それと同時に目が行ったのは、携帯電話の時計表示だった。無情にもデジタル表示は予定していた時刻の電車には間に合わない事を知らせていた。
「チキショウ、あの浮浪者のせいで間に合わねえじゃねえかよ!」
俺は髪をかきむしりながらそう怒鳴ると、通勤カバンを拾い上げて携帯電話を中に放り込む。そして、早口でノリコに言った。
「いいか、部屋出るときは必ずカギ掛けてけよ。それから、帰るんなら必ず俺の晩メシ作ってから帰れよ、分かったな?」
「うん」
いつも通りノリコは俺の言葉に素直に頷いた。それから俺はノリコの、
「いってらっしゃい」
という言葉と同時に玄関のドアを閉めた。
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